▼さまざまに変容していくイナンナ
『イナンナの冥界下り』の主人公である女神イナンナは、後代のさまざまな神話の女神の祖形です。
シュメール神話においては「イナンナ」と呼ばれる彼女は、シュメールのあとを継ぐアッカド語で書かれる神話では「イシュタル」と呼ばれます。金星や豊穣の女神でもあるイシュタルは、ギリシャ神話では「アフロディーテ」になり、ローマ神話では「ヴィーナス」になり、さらにグレゴリオ聖歌の『海の星(アヴェ・マリス・ステラ)』が金星であるとする説に従うならば「聖母マリア」もイナンナを継ぐとも考えられるのです。
すごっ!
すごすぎるので、よくわからなくなってしまいそうなので、まとめておきますね。
シュメール:イナンナ
アッカド :イシュタル
ギリシャ :アフロディーテ
ローマ :ヴィーナス
キリスト教:マリア
古代メソポタミアからイエスの母まで続く、この女神の系譜の祖形であるイナンナとはどんな神だったのでしょうか。その姿を神話や当時の賛歌(hymns)から見ていきましょう。
▼イナンナの楔形文字
今回はまずはイナンナを表す文字を紹介しておきますね。
シュメール語は、楔形文字(cuneiform)で書かれます。楔形文字にも時代によってさまざまな字体があり、もっとも一般的な楔形文字である新アッシリアの字体では、イナンナは次のように書かれます。
この字体では、イナンナが何を表しているかがわかりませんね。
ということで、もっとも古い字体を見てみます。ウルク古拙文字と呼ばれる字体では以下のようになっています。あるいは次のようにも書かれます。
この字を見ると、髪の長い女性が立っているように見えますが、これは葦の束を象った文字だそうです。
「えー、葦に見えない」という方。そういう方のために…。以下は葦の家です。
左が昔の絵で、右が現代の家の写真です。すごいですね。ほとんど変わっていません。で、昔の家の屋根から出ているものがイナンナの文字に似ています。現代の葦の家には、これはありません。
…となると、これは古代の家の屋根につけた注連縄のようなものかも知れません。
この字が横になり、そして今の文字(って新アッシリアの時代ってことね ww )にだんだん変わっていきます。ちなみに、これからもよく参照するウル第三王朝時代の文字を間に挟んでおいておきます。 →
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ウルク古拙文字 ウル第三王朝 新アッシリア