『イナンナの冥界下り』を読むのに、覚えておきたいシュメール語を紹介します…って、覚えても何の役にも立ちませんけど~。
今回は「アン」と「キ」
▼アンとキ
『イナンナの冥界下り』というタイトルは『Inana's descent to the nether world』の訳ですが、本当は『アン・ガル・タ、キ・ガル・シェ(大いなる天より大いなる地へ)』と呼ぶのがいいようです。
これは『イナンナの冥界下り』の書き出しの文です。
「アン・ガル・ タ、 キ・ガル・ シェ」
大いなる天 から 大いなる地 へ
『聖書(旧約聖書)』の最初の篇も「創世記」と呼ばれていますが、ヘブライ語では「ベレシート(最初に」)」といいます。これもその書き出しです(ベレシート・バーラー・エロヒィム:最初に神は創造した)。
女神イナンナは「大いなる天から大いなる地へとその耳を立てた」のです。
…というわけで、今回は書き出しの文から「天」と「地」のシュメール語を紹介しましょう。
まずはカタカナで。
天 :アン
地 :キ
▼天(アン)は星
「天(アン=an)」の楔形文字はこれです。

これは新アッシリア時代の新しい形なので、古い字体もいくつか紹介しましょう。

いかがですか。真ん中のなんかウニみたいですし、右のはお花のようですね。
この「天(アン)」の文字は「星」の象形だといわれています。
「なるほど!」
そう言われてみれば…でしょ。
▼天は神様でもある
ちなみに「アン」は天だけでなく「神様」という意味でも使われていますし、「アン(an)」という名前の神様もいます。
また、シュメール語やアッカド語では、文字の前や後ろに「これは何に属しますよ~」ということを教えてくれる「限定詞」というのをつけることがあります。
これ、大事な用語なので二度いいます。
「限定詞」
神様だったら「神様マーク」の限定詞がつき、人だったら「人間マーク」の限定詞が付き、土地だったら「土地マーク」の限定詞が付きます。
で、限定詞としての「神様」マークには、この「アン」が使われます。
ですからイナンナをあらわすには…
「神様マーク(限定詞)」+「イナンナの楔形文字」になるのです。

こうとか…

こうとか…
(この組み合わせの場合は本当は縦書き)
こうとかです。
▼地(キ)はよくわからない
「地(キ=ki)」の楔形文字はこれです。

これも新しい字形なので、古い字形を紹介しますね。もっとも古いウルク古拙文字ではこうなります。

う~ん、これが「地」か。よくわかりませんね。
で、この「地」は甲骨文字では何に当たるだろうと考えると「田」が一番近いかも、と思うのです。実はいま旅先で手元に甲骨文字の本がないので、数日して帰宅したら(で、忘れていなかったら)紹介します。
※ちなみに甲骨文字では「田」は動詞として使われることが多いのです。
▼楔形文字には異体字が多い
さて、楔形文字は時代が下ると、90度反時計回りに回転します。「キ(ki)」はウル第三王朝の時代になると、次のようになります。

ひし形になって、より「田」に近くなりました。
ところで楔形文字は異体字がすごく多いんです。これは甲骨文字や金文も同じですが…。
慣れないうちは、とても同じ文字には見えません。では「キ(ki)」の異体字を、ウル第三王朝のものだけに限って、いくつか(!)紹介します。
まずは…

ひし形が三角になっちゃいましたね。で、次は…

三角の頂点が違う。さらには…

今度は長方形です。
漢字の書き取りでハネとかトメとか書き順とかチマチマやっているのがアホらしくなります(これも甲骨文字や金文でも同じ)。
▼地は土地を示す限定詞
ちなみに「地:キ(ki)」という名前の神様もいます。「天:アン(an)」 のお后です。
また、「キ(ki)」は土地を表す限定詞としても使われます。たとえば以下の単語の最初に「キ=ki」が見えますね。

これは「キ・エン・ギ(ki-en-gi)」と読んで「シュメール」を意味するシュメール語です。シュメール語でシュメールは「キ・エン・ギ(ki-en-gi)」です。「すめらみこと」が「シュメールのみこと」がというのは、めちゃくちゃな話ですね。
ところでさっき「土地」がどうしてこの形になるのかよくわからん、と書きましたが、もう少し新しいもの(紀元前6世紀くらい)になりますが、バビロニアの地図なんか、ちょっと似ているかも。土地を丸く囲むとことかね。
今回は「アン」と「キ」
▼アンとキ
『イナンナの冥界下り』というタイトルは『Inana's descent to the nether world』の訳ですが、本当は『アン・ガル・タ、キ・ガル・シェ(大いなる天より大いなる地へ)』と呼ぶのがいいようです。
これは『イナンナの冥界下り』の書き出しの文です。
「アン・ガル・ タ、 キ・ガル・ シェ」
大いなる天 から 大いなる地 へ
『聖書(旧約聖書)』の最初の篇も「創世記」と呼ばれていますが、ヘブライ語では「ベレシート(最初に」)」といいます。これもその書き出しです(ベレシート・バーラー・エロヒィム:最初に神は創造した)。
女神イナンナは「大いなる天から大いなる地へとその耳を立てた」のです。
…というわけで、今回は書き出しの文から「天」と「地」のシュメール語を紹介しましょう。
まずはカタカナで。
天 :アン
地 :キ
▼天(アン)は星
「天(アン=an)」の楔形文字はこれです。

これは新アッシリア時代の新しい形なので、古い字体もいくつか紹介しましょう。



いかがですか。真ん中のなんかウニみたいですし、右のはお花のようですね。
この「天(アン)」の文字は「星」の象形だといわれています。
「なるほど!」
そう言われてみれば…でしょ。
▼天は神様でもある
ちなみに「アン」は天だけでなく「神様」という意味でも使われていますし、「アン(an)」という名前の神様もいます。
また、シュメール語やアッカド語では、文字の前や後ろに「これは何に属しますよ~」ということを教えてくれる「限定詞」というのをつけることがあります。
これ、大事な用語なので二度いいます。
「限定詞」
神様だったら「神様マーク」の限定詞がつき、人だったら「人間マーク」の限定詞が付き、土地だったら「土地マーク」の限定詞が付きます。
で、限定詞としての「神様」マークには、この「アン」が使われます。
ですからイナンナをあらわすには…
「神様マーク(限定詞)」+「イナンナの楔形文字」になるのです。


こうとか…


こうとか…


(この組み合わせの場合は本当は縦書き)
こうとかです。
▼地(キ)はよくわからない
「地(キ=ki)」の楔形文字はこれです。

これも新しい字形なので、古い字形を紹介しますね。もっとも古いウルク古拙文字ではこうなります。

う~ん、これが「地」か。よくわかりませんね。
で、この「地」は甲骨文字では何に当たるだろうと考えると「田」が一番近いかも、と思うのです。実はいま旅先で手元に甲骨文字の本がないので、数日して帰宅したら(で、忘れていなかったら)紹介します。
※ちなみに甲骨文字では「田」は動詞として使われることが多いのです。
▼楔形文字には異体字が多い
さて、楔形文字は時代が下ると、90度反時計回りに回転します。「キ(ki)」はウル第三王朝の時代になると、次のようになります。

ひし形になって、より「田」に近くなりました。
ところで楔形文字は異体字がすごく多いんです。これは甲骨文字や金文も同じですが…。
慣れないうちは、とても同じ文字には見えません。では「キ(ki)」の異体字を、ウル第三王朝のものだけに限って、いくつか(!)紹介します。
まずは…

ひし形が三角になっちゃいましたね。で、次は…

三角の頂点が違う。さらには…

今度は長方形です。
漢字の書き取りでハネとかトメとか書き順とかチマチマやっているのがアホらしくなります(これも甲骨文字や金文でも同じ)。
▼地は土地を示す限定詞
ちなみに「地:キ(ki)」という名前の神様もいます。「天:アン(an)」 のお后です。
また、「キ(ki)」は土地を表す限定詞としても使われます。たとえば以下の単語の最初に「キ=ki」が見えますね。

これは「キ・エン・ギ(ki-en-gi)」と読んで「シュメール」を意味するシュメール語です。シュメール語でシュメールは「キ・エン・ギ(ki-en-gi)」です。「すめらみこと」が「シュメールのみこと」がというのは、めちゃくちゃな話ですね。
ところでさっき「土地」がどうしてこの形になるのかよくわからん、と書きましたが、もう少し新しいもの(紀元前6世紀くらい)になりますが、バビロニアの地図なんか、ちょっと似ているかも。土地を丸く囲むとことかね。
