(安田登)
『古事記』の冥界下りに似ているのが、ギリシャ神話のオルペウスの冥界下りです。
竪琴と歌の名手、オルペウス。彼は、毒蛇に噛まれた死んでしまった妻をもう一度生き返らせるために冥界に行くのです…って、似てるでしょ。『古事記』も、死んでしまった妻をこの世に戻すために冥界に行きます。
ただし、この神話、ギリシャ語で書かれているものはとても簡単なものしかありません。以下がそれです。
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カリオペーとオイアグロスから、しかし名義上はアポローンから、へーラクレースが殺したリノスおよび歌によって木石を動かした吟唱詩人オルぺウスが生れた。オルべウスはその妻エゥリュディケーが蛇に噛まれてなくなった時に、彼女を連れ戻そうと思って冥府に降り、彼女を地上にかえすようにとプルートーンを説き伏せた。プルートーンはオルぺウスが自分の家に着くまで途上で後を振りむかないという条件で、そうしようと約束した。しかし、彼は約を破って振り返り、妻を眺めたので、彼女は再び帰ってしまった。
オルべウスはまたディオニューソスの秘教(ミュステーリア)を発見し、狂乱女(マイナデス)たちに引き裂かれてピエリアーに葬られた。 『ギリシャ神話(アポロドーロス:高津春繁訳)』1C~2C
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ね、あっさりしているでしょ。それに1世紀から2世紀くらいって新しすぎです。
ギリシャ神話をギリシャ語で読もうとすると、こういう問題にぶつかります。『神統記(ヘーシオドス)』も、あっさりしすぎているし…。むしろラテン語で書かれたものが方が古かったりします。
▼ラテン語で書かれたオルペウスの冥界下り
…ということでラテン語ではオウィディウス( 紀元前43年3月20日 - 紀元17年)が書いた『変身物語』の第十巻にオルペウスの冥界下りの話が載っています。
では、その物語を紹介しましょう(以下、逐語訳ではありません)。
▼少年愛、ここに始まる
ね、あっさりしているでしょ。それに1世紀から2世紀くらいって新しすぎです。
ギリシャ神話をギリシャ語で読もうとすると、こういう問題にぶつかります。『神統記(ヘーシオドス)』も、あっさりしすぎているし…。むしろラテン語で書かれたものが方が古かったりします。
▼ラテン語で書かれたオルペウスの冥界下り
…ということでラテン語ではオウィディウス( 紀元前43年3月20日 - 紀元17年)が書いた『変身物語』の第十巻にオルペウスの冥界下りの話が載っています。
では、その物語を紹介しましょう(以下、逐語訳ではありません)。
オルペウスの新妻、エウリュディケは草原で蛇に踵をかまれて死んでしまいました。オルペウスは妻をいたんで地上で十分泣きつくすと、亡霊たちの国、黄泉の国に降りていきました。
亡霊たちの群がるなかを通りぬけて「悲しみの国の支配者・亡霊たちの王」のもとへと進み、竪琴を弾き、歌います。
妻を探しにここまで参りました。
一匹の毒蛇のために、まだ年若い妻は死んでしまいました。
あなたが治めるこの冥界こそ、わたしたちの終の棲家。
妻もまた、墓に入るにふさわしい年齢になれば、あなたがたの配下に入ることは必定。
どうか妻にお恵みを垂れ、
それまでの間、もう一度人生を楽しませてください。
それまでの間、もう一度人生を楽しませてください。
それがかなわぬならば、
わたしも地上に帰らぬ決心をしております。
わたしも地上に帰らぬ決心をしております。
わたしたちがふたりとも死ぬのを見てお楽しみくださればいい
亡霊たちも、この歌を聞いてみな涙を流した。タンタルスも水を追いもとめることをやめ、イクシオンの火の車はとまり、はげ鷹どもは生贄の肝臓を引き裂くことをやめ、ベルスの孫娘たちは水甕を捨て、シシュプスも転がす岩の上に腰をおろし、冷徹なるエウメニデスはじめて頬を涙でぬらした。
冥府の王妃も王者も、ついにオルペウスの願いを退けることはできず、傷のために足をひきずる若妻エウリュディケをオルペウスに渡し、「アウェルヌスの谷を出るまではけっして後ろをふりかえらない」という約束をした。
ふたりは、濃い霧におおわれた、暗い、急な坂道を沈黙のまま上って行きました。が、オルペウスは妻が遅れていはすまいかと心配になり、つい後ろを振り返ってしまったのです。
すると、妻は、たちまち後ろへひきもどされ、ふたたび死の国に連れ戻されてしまうのです。
▼少年愛、ここに始まる
アポロドーロス(『ギリシャ神話』)によれば、冥界から戻ったオルべウスはディオニューソスの秘教(ミュステーリア)を発見したことによって、狂乱女(マイナデス)たちに引き裂かれて死んだと書かれていますが、ラテン語版(『変身物語』オウィディウス)ではちょっと違います。
彼は「女のために、自分はこんなに不幸になったんだ」と思い、すべての女性との交渉を断ってしまったのです。そして彼は少年を愛し始め、「まだ大人にならぬうちに人生の春と最初の花とを摘むことを身をもって教えたのは、じつにオルペウスその人だったのである」となるのです。
少年愛の始祖こそオルペウスです。
ちなみに、この故に、やはりディオニューソスの乙女たち(バッカスの神女)に殺されたとも言われています。
彼は「女のために、自分はこんなに不幸になったんだ」と思い、すべての女性との交渉を断ってしまったのです。そして彼は少年を愛し始め、「まだ大人にならぬうちに人生の春と最初の花とを摘むことを身をもって教えたのは、じつにオルペウスその人だったのである」となるのです。
少年愛の始祖こそオルペウスです。
ちなみに、この故に、やはりディオニューソスの乙女たち(バッカスの神女)に殺されたとも言われています。