こんにちは。浪曲師の玉川奈々福です。

古代メソポタミア文明の中で、最古の都市文明・シュメール。
紀元前3500年ごろのその文明で使われていた楔形文字のシュメール語で記録された、現存する最古の神話「イナンナの冥界下り」を、日本語とシュメール語を交えて上演する企画。
語りと三味線を担当させていただいております。
いまから5500年前という、遠いいにしえの神話を上演するために、現存する最古の演劇であり、古代の儀礼的要素を色濃く残す「お能」を軸に構成していますが、この舞台は、能楽師(ワキ方、笛方、狂言方)のほかに、浪曲師、人形師、ダンサー、オペラ歌手など……それぞれに伝統的な身体技法を身に着けた芸能者たちのコラボレーションによって展開します。楽器は、能楽で使う笛(能管)、三味線のほかに、中東の打楽器であるダルブッカとダフ、またライアーという竪琴を用います。
神事のような感覚で見ていただく舞台かもしれません。

思い起こせば昨年3月。京都の西本願寺で行われた節談説教(←これも日本の誇るべき魅惑的な語りです!!!)セミナーに、安田先生と私は講師として参加させていただきました。
そのときに、先生が突然。
「えっと、今度のお仕事、奈々福さん、とりあえず三味線も持ってきてくれますか?」
あ、説明しますと、私は浪曲師ですが、浪曲三味線弾きでもあるのです。
しかし……三味線持ってきてくれますかって……何???
講師は、講義をするのです。
そして、浪曲師は、三味線の弾き語りは基本しないし、三味線一丁だけでは芸にならないのです。

「ぼくの語りに、三味線を合わせてみてもらえますか?」
……と言われたのは、講義の前日。
ど、え、え、え、ええええええええええっっっ!?
「お能」の先生の「語り」に、三味線を合わせるですとぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ???
……ところがあたくし、根が鈍感なのか果敢なのか。
翌日の講義。先生語るところの「吾輩は猫である」に、三味線を合わせていました。

以来、たった一年ちょっとの間に、もう十数回の舞台をご一緒させていただきました。
コラボしてはじめて気づいたこと。
浪曲の三味線は万能である、ということ。
いや、違います。和の芸能の基本には、息をくみ取り、息を合わせる、という身体性があるために、
私は語りの間に三味線で切り込んでいくことができ、先生もその間を利用しながら、語ることができるのです。

……他のジャンルの芸能と息を合わせるというこの刺激的な体験。
それによって、私は浪曲を再発見することができました。
毎度スリリングな安田一座。ぜひとも舞台を見に来ていただきたいと思います。(玉川奈々福)