イナンナの冥界下り

シュメール神話『イナンナの冥界下り』を上演するための雑感を書くブログです。

公演

『イナンナの冥界下り』未来編~いとうせいこうさんの声の出演も~

◆◆◆イナンナの冥界下り 2017年6月公演迫る◆◆
  ~いとうせいこうさんの出演(声)も決定!~

イナンナの冥界下り2017年6月公演チラシ表2/20170511


来る6月23日(金:あ、もう来週の今日)に予定されている『イナンナの冥界下り』セルリアンタワー能楽堂公演では、いままでの「古代編」に加えて「未来編」も上演いたします。

古代編には、実験道場の面々も登場し、またまたポップな舞台になります。そして、未来編は一転して(なんと)能よりも静かな舞台になりそうです。さらに未来編には、いとうせいこうさんによる声の出演(自著朗読)も決定しました。

ちなみに正面席はございませんが、ほかのお席はございますので、どうぞお早目に~。

▼未来編の舞台はシンギュラリティ直後の世界

未来編の舞台はシンギュラリティ直後の世界です。

AI(人工知能)やVR、そしてロボットなどのコンピュータ技術の進歩や、遺伝子工学、人工臓器などの生命科学などの発達によって、今までの常識がまったく通じなくなる世界(シンギュラリティ=特異点)が2045年頃に訪れるという予測を、レイ・カーツワイルがしました。

その前にも2020年(東京オリンピック)や2030年にも大きな変化が予想されています。もう目の前の話です。

シンギュラリティ表紙
マレー・シャナハン (著), ドミニク・チェン (監修・翻訳)

今回の『イナンナの冥界下り』未来編は、2045年頃と予測されているシンギュラリティ直後の世界が舞台です。

本当にシンギュラリティがやって来たら人類はどうなってしまうのだろうか。ひょっとしたらコンピュータに支配されたり、あるいは滅んでしまったりするのではないか、そう心配する人もいます。しかし、私はそんなことはないと思っています。なぜなら、このようなシンギュラリティを人類は過去に何度も体験してきたからです。

とはいえ、そのたびごとに確かに人々の生活や文化は激変し、ときには脳そのものの変化すら起きました。いまの生活がそのまま続くということはないでしょう。

直近のシンギュラリティは「文字」の発明による文字シンギュラリティです。文字シンギュラリティは、「心」を生み、「論理」を生み、そして「法(組織・マニュアルも)」を生みました。

シュメール語の『イナンナの冥界下り』は、文字シンギュラリティ直後に書かれた神話であり、私たちはこの神話を上演することによって、文字シンギュラリティ後にどのようなことが起こったかを知ることができます。

ならば、その構造をそっくりそのまま未来に移し替えることも可能なのではないか、そう思い『あわいの力』や『イナンナの冥界下り』(ともにミシマ社)を書いたのですが、その世界がほぼそのまま小説になっていたのです。

それが、いとうせいこうさんの『親愛なる(河出書房新社)』でした。

親愛なる表紙

▼ダンスをコトバとする主人公

『親愛なる』の初版は、読者ひとりひとりにカスタマイズされた形で物語れるという実験的な方法で書かれました(現在は普遍版の入手も可能)。

あらゆる事件が自分の周囲で起こり、自分のメールアドレスにいとうさんからメールが来る。そんな仕掛けに取り込まれ、現実と虚構との境を見失っているうちに、いつの間にか不思議な位相に引きずり込まれていて、気がつくと自分が近未来の韓国の地下世界にいるのです。

いとうせいこうさんの『親愛なる』では次のように書かれます。

*****************
昔、地上に人がいた。
だが、大きな戦いが起こり、人々は皆地下を目指した。
******************

今回の舞台は、この地下世界です。「イナンナ未来編」では、そこは「クル(Kur=冥界)」と呼ばれ、地下世界の女王「エレシュキガル」に支配されています。

小説のネタバレになるのであまり詳しくは書けませんが、『親愛なる』では、そこに住む人たちはどの国の言語も理解できるように身体改造がなされています。しかし、実はそれは「賢い者」によって「言葉が奪われている」状態なのです。

これって、即座に各国語に翻訳されるガジェットを手に入れた現代を思い出します。とても便利なようですが、実はそれを効率的に使うためには、たとえば主語を補ったり、従属節を明確化したりなどという英語的な文法でしゃべらなくてはならなくなります。知らないうちに世界中で文法の統一がなされ、それによって思考方法の統一がされてしまうのです。

こわ…。

さて、小説『親愛なる』の主人公であるソンメジャという女性は「DEF SONIC」と呼ばれる一群に属しています。彼女たちは共通言語的身体に改造されていないために、人々の話す言葉が理解できず、まずその話す言葉は人々には雑音としてしか聞こえない。

「DEF」とは、ヒップホップ用語で「かっこいい(definite)」とかそんな意味ですが、あとに「SONIC」が付くし、上記のような設定なので、当然それには「Deaf(聾)」が掛けられているでしょう(そしてそれと対になる「Mute(唖)」も)。

DEF SONICとして言葉を失っているソンメジャは、音声言語代わりにダンスで話し、聞きます。彼女にとっての(広義の)コトバは、ダンスなのです。

未来編のイナンナも、ダンスをコトバとするDEF SONICです。

※ちなみに主人公のソンメジャは、韓国の舞踏家、金梅子(キム・メジャ)さんがモデルです。

金梅子&土取利行「光」

※余談ですが、平城遷都1,300年記念式典のクロージング作品としたて、土取利行さんや中村明一さんと作った「間」を、金梅子さんが御覧になり、僕たちを韓国に招へいしてくださいました。そして、それを奈良で上演したときの司会が、いとうせいこうさんと松岡正剛さん…なんていう不思議な因縁もございました。

▼「脳」が文字を生み出した

ちなみに「Deaf(聾)」も「Mute(唖)」も、現代では差別用語として使用が控えらていれますが、しかしこれはシンギュラリティにおいてとても重要な身体的な特徴なのです。時代を変える人に刻まれた「聖痕」といってもいいでしょう。

文字シンギュラリティが中国で起こったのは紀元前1,300年ごろ、殷(いん=商)と呼ばれた時代です。

その時期に生まれたのが甲骨文字です。

20080902193654

それを発明したのが誰かはわかっていません。しかし、殷(商)の「武丁(ぶてい)」という王の時代に最初のものが見つかっているので、武丁が文字を発明したという人もいます。そして、彼は聾唖(ろうあ)だったという説があるのです。

文字は、脳の外在化ツールではなかったかと思います。ひょっとしたら紀元前1,300年ごろに、現在のような突如とした情報の洪水が起こり、それによって氾濫しそうになった「脳」が外在化のツールを求め、文字が誕生したのではないでしょうか。文字は「脳」がその誕生を希求し、それを「DEF SONIC」の武丁が実現した、そう考えられるかもしれません。

ここら辺のことは情報学者のドミニク・チェンさんや、ゴスペラーズの酒井さんと『WIRED』での鼎談でお話したので省略しますが…


…しかし、それを発明したのがDEF SONIC(聾唖)の王であったという伝承は非常に重要だと思うのです。彼は、言葉の世界から離れていたからこそ、その洪水に巻き込まれることもなく、冷静に脳の外在化装置としての文字を生み出し得たのではないでしょうか。

▼不安創出社会を救う人たち

文字の発明によって、私たちは自分が直接体験したことのないことまでも喋ることができるようになりました。それが文明や文化を作ったのですが、しかし実体験よりも概念が上回り過ぎた現代人は、かつてないほど饒舌になり、その会話も思考も、身の丈を超えたものになっています。

「いま自分にないもの」を語ることによって人々はそれを「渇望」することになります。そしてそれは、やはり文字とともに生まれた「心」を刺激し、それが満たされないことがわかると「不満」が増大します。不満はやがて「不安」になり、多くの人々がびくびくしながらも、しかし不機嫌に生きる「不安社会」が誕生します。

現代社会は、ただ不安社会であるだけでなく、ニーズ(渇望)の創出というマーケティング手法の導入によって「不安創出社会」にすらなっています。

すべて「文字」と「心」と、そしてそれに伴う言語の過剰が生み出したものです。

ならば、ポスト文字や、ポスト心を生み出す人は、やはり武丁のような言葉を聞くことも、発することもできない人々、すなわちDEF SONICなのではないでしょうか。

▼無音の多い舞台

というわけで、「未来編」では言葉のない状態、すなわち無音やノイズが多くなります。

いろいろと調整中(許可の必要となることも多いので)なので詳細は書けませんが、派手な古代編とは対照的な静謐を多用する、緊張感あふれる舞台になる予定です。出演者も最少人数に抑え、舞台上にも空隙を多く作ります。

能を大成した世阿弥は「せぬ隙(ひま)」ということを言いました。言葉が出る前、動きが見える前、その時間的、空間的な間隙、それを「せぬ隙」といいます。後代の「間(ま)」のもととなる概念です。

今回の舞台では、この「せぬ隙」、すまわち「間」が非常に多い舞台になるでしょう。

ところどろこに、いとうせいこうさんの『親愛なる』からの引用が朗読されますが、それを朗読するのがいとうせいこうさん本人です。ただし、ノイズや音楽とリミックスされ、玉川奈々福さんの朗読、安田のシュメール語朗誦とも重なり(高井啓介先生にお願いして、いとうせいこうさんの文章をシュメール語訳していただきました)、いとうさんの存在も「せぬ隙」となります。

未来編のイナンナ役にはアムステルダム在住のコンテンポラリー・ダンサー湯浅永麻さんをお迎えします。埼玉トリエンナーレの『HOME(向井山朋子作・演出)』を、『イナンナの冥界下り』の出演者たちと観に行き、その表現力や身体能力の高さにみな度肝を抜かれ、今回の出演をお願いしました。

永麻さんはアムステルダム在住だし、能楽師、浪曲師の時間を合わせるのがなかなか難しいので、永麻さんをお迎えしての未来編・東京公演は今回が最後になるかも知れません。

実は2日公演にしたかったのですが、どうしても日程の都合がつかず、(ほんともったいないのですが)1回公演になってしまいました。

そんなわけで、安田からのメールも今日まで控えておりました。現時点でワキ正面と中正面にはまだお席があるようです。

くれぐれもお見逃しのなきよう、皆さまのお出ましをお待ち申しております。

■日時 6月23日(金)18時15分開場 19時開演

■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)

■料金 正面席6,500円、脇正面席5,500円、中正面席4,500円

(てんらい会員は1,000円引き 指定ご希望の方は1,000円にて承ります)

■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)

明解する「冥界」その3 急の段

イナンナの「明解」下り(3) 急の段

『イナンナの冥界下り』を明解に解説する「イナンナの「明解」下り」の3回目。今回は「急の段」、女神イナンナが甦りますよ~。

シュメール語の高井啓介先生にチェックをしていただきましたが、文責は安田登です。写真は田島空さんに撮っていただいたものと、ビデオカメラからのキャプチャーを使いました。

イナンナ3

●全体の構造
またまた全体の構造を復習しておきましょう。今回は、この中の「急の段」です。

プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)
序の段 女神イナンナ 冥界に赴く
序の1段さまざまなものを捨て、7つの「メ」を身につける
序の2段大臣ニンシュブルに後事を託す
序の3段冥界への道行き
破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る
破の1段イナンナ、冥界に到着し、エレシュキガルの怒りを招く
破の2段7つの「メ」が剥がされる
破の3段弱い肉となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられる
急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り
急の1段ニンシュブル、神々のところに行く
急の2段クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く
急の3段イナンナとエレシュキガルが甦る
エピローグ 神送り

▼急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り 

●ニンシュブル、神々のところに行く

イナンナの大臣ニンシュブルは、イナンナが残した言葉のそのままに、体を引き裂き貧しき者のごとき姿で、哀歌を歌いつつ、神々の神殿を徘徊し、まずエクルのエンリル神殿に参り、そこで大神エンリルの前で涙を流し、大きな声で泣いた。しかしその願いが聞き入れられなかったニンシュブルは次に大神ナンナの所に参ったが、やはりダメだった。最後に参ったのは大神エンキのところ。

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<激しく泣くニンシュブル>
 
SnapShot(52)
<さらに激しく泣く>

●クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く

大神エンキは、爪の泥からクルガラガラトゥルの二体を作り、命の草命の水を授けて冥界に遣わした。クルガラとガラトゥルを演じるのは子方(子ども)。クルガラは奥津健一郎、ガラトゥルは笹目美煕です。

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<エンキの爪の垢から作られたクルガラ、ガラトゥルは冥界に向かった>

gala-tur kur-ĝar-ra ĝišig nim-gin7 mu-un-dal-dal
(ガラトゥルとクルガラは蝿のように扉を飛び)
gala-tur kur-ĝar-ra za-ra lil2-gin7 mu-un-gur-gur
(ガラトゥルとクルガラは「風」のように柱を回った)

イナンナを助ける精霊たちが「蝿(nim)のように扉を飛び」と聞くと「え~、ハエ。やだ~」と思う方もいらっしゃると思うのですが、ハエは決して悪いものではありませんでした。アッカド語の『ギルガメッシュ叙事詩』には神にかたどった「大きな(偉大な)ハエ」のラピスラズリの首飾りを掲げる…などという表現もあります(第11書板163行目:George版)。

また、「風(lil2)」の方は「霊」と訳してもいいし、「息」と訳してもいい。ヘブライ語の「ルアフ(רוּחַ )」やギリシャ語の「プネウマ(πνεῦμα)」と同じですね。

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<”風(霊、息)”のように柱を回る>

SnapShot(60)
<ふたりは冥界に着いた>

●クルガラ、ガラトゥルとエレシュキガルとの会話

冥界に着いたクルガラとガラトゥルはエレシュキガルと不思議な会話をします。

クルガラ、ガラトゥル(以下、クル、ガラ):いかに申し上げ候。
エレシュ:u-u8-a šag4-ĝu10(ああ、私の内が)
ク  ル:おお、哀れなるかな御身の内が。
エレシュ:u-u8-a bar-ĝu10(ああ、私の外が)
ガ  ラ:おお、哀れなるかな御身の外が。
エレシュ:
a-ba-am3 za-e-me-en-ze2-en(お前は誰だ)
ク  ル:我が内より御身の内へ。我が外より、御身の外へ。
エレシュ:
a id2-bi ma-ra-ba-e-ne(川いっぱいの水を与えよう)
ガ  ラ川を満たす水なりとも。我が賜はるべきものにてはなく候。
エレシュ:
a-šag4 še-ba ma-ra-ba-e-ne(畑いっぱいの大麦を与えよう)
ガ  ラ 畑を満たす大麦なりとも。我が賜はるべきものにてはなく候。
クル・ガラ:ただあの釘より吊るされたる死体を賜り候へ。
エレシュ:
uzu niĝ2 sag3-ga ĝišgag-ta la2(釘に吊るされた死体?)
ク  ル:なかなかのこと。
エレシュ:
uzu niĝ2 sag3-ga ga-ša-an-zu-ne-ne(釘から吊る下げられた死体はお前たちの女王だ)
クル・ガラ:我が王であれ、我が女王であれ、ただただ賜り候へ。


●イナンナとエレシュキガルが甦る 

イナンナの死体をゲットしたクルガラ、ガラトゥルは、そこに命の水と命の草を注ぎます。するとイナンナは甦り、なんとエレシュキガルも元気になるのです。

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<甦ったイナンナとエレシュキガル>

●イナンナの舞

甦ったイナンナは喜びの舞を舞います。舞の詞章は、中川学さんのイラスト(ページの最初)の左側に書いてある楔形文字『イナンナ賛歌』)を元にしています(詳しい説明はこちら)。原文はエメサルという女性や神官が使う言葉ですが、それを普通の言葉(エメギル)に直しています。

den-lil2-e an ma-an-ze2-eĝ3(エンリルは私に天を与えた)
den-lil2-e ki ma-an-ze2-eĝ3(エンリルは私に地を与えた)
me-e dinana an-en(私はイナンナ)
ma-ra diĝir teš2 mu-da-sa2-a(私に比すべき神はいない)

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<榊を手にして舞うイナンナ(右)>

69
<「私はイナンナ。私に比すべき神はいない」>

●エレシュキガルの舞

続いて冥界の女王エレシュキガルも舞を舞います。エレシュキガルの舞は「序之舞(じょのまい)」という能の舞です。

「序之舞」では、最初に「序」という特殊な足遣いがあります。これは陰陽師や山伏などが行う「反閇(へんばい)」「禹歩(うほ)」などの呪術的な足遣いを模したものとも言われています。

通常は能管(笛)と小鼓、大鼓、あるいは太鼓も加わっての舞になりますが、今回は能管とヲノサトルさんのアナログシンセによる冥界の風のようなノイズ。しかし「序」の間は能管だけで、静寂の中、緊迫感を持って舞われました。 

72
<序の足遣いをする冥界の女王エレシュキガル>

088inana 087inana
<ヲノサトル(左)、槻宅聡(右)>
086inana 085inana

090inana

悠々たり悠々たり。太だ悠々たり。
生まれ生まれ。生まれ生まれて 生の始めに暗く
 
    【序之舞】青柳

杳々たり杳々たり。甚だ杳々たり
死に死に。死に死んで 死の終りに冥し
 
女神はパラの衣を着し
女神はパラの衣を着して
シャガンの器を油で満たし
溢るる思ひは身をくだく
千々に乱るる胸の火の
日も夕暮れになりぬれば
パラの衣の長き袂を
翻し翻し袖を返せば
返す命は常盤木の
永遠(とわ)の恵みをイナンナに与え
エレシュキガルはむばたまの
冥き道行く冥界の
冥き道行く冥界の塵の
霞にまぎれて失せにけり

▼エピローグ 神送り 

『イナンナの冥界下り』の舞台は、「よりまし」にイナンナの霊を憑依させるところから始まりました。このような芸能の場合、最後に憑依した神さまを送る「神送り」の儀式が必要になります(大相撲でも最終日に「神送り」が執り行われます)。

この舞台で神を送るのは神官コロスの役割。叙事詩の最初の詞章を謡いながらイナンナを送り、憑依を解きます。

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<神官とコロスによる「神送り」>

明解する「冥界」その2 破の段

イナンナの「明解」下り(2) 破の段

『イナンナの冥界下り』を明解に解説する「イナンナの「明解」下り」の2回目。今回は、冥界でイナンナが殺されてしまう「破の段」についてお話をします。

シュメール語の高井啓介先生にチェックをしていただきましたが、文責は安田登です。写真は田島空さんに撮っていただいたものと、ビデオカメラからのキャプチャーを使いました。

イナンナ3

●全体の構造


最初に全体の構造を復習しておきましょう。今回は、この中の「破の段」です。イナンナが死んじゃうところですね。

プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)
序の段 女神イナンナ 冥界に赴く
序の1段さまざまなものを捨て、7つの「メ」を身につける
序の2段大臣ニンシュブルに後事を託す
序の3段冥界への道行き
破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る
破の1段イナンナ、冥界に到着し、エレシュキガルの怒りを招く
破の2段7つの「メ」が剥がされる
破の3段弱い肉となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられる
急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り
急の1段ニンシュブル、神々のところに行く
急の2段クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く
急の3段イナンナとエレシュキガルが甦る
エピローグ 神送り

▼破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る

●冥界の祭り

今回の上演では原典にないところを一箇所入れました。「冥界の祭り」です。

イナンナが冥界へ旅立つと、舞台の上は真っ暗になってしまいます。イナンナが冥界に行くと、地上は闇になりあらゆる生殖活動が止まってしまい、地上が死の世界になってしまうのです(日本の天岩戸神話に似ていますね)。

でも、その代わりに元気になるのが冥界。冥界では「冥界祭(クル・ヌ・ギ祭)」が執り行われています。

ワンポイントシュメール語講座! by 高井啓介先生
シュメール語で「冥界」を意味する表現の一つにクルヌギというものがあります「kur(kur地)nu(nuない)+ gi4(gi4帰)」で、「帰らざる土地」(land of no return)。基本的に冥界に入ったら帰ることはできません。当たり前ですが。

クルヌギはただ単にクルと呼ばれることもあります。

『冥界下り』の物語のなかでは、破の1段(83行目)で、冥界の門番ネティが…

a-na-am3 ba-du-un kur nu-gi4-še3(なぜあなたはクルヌギなんかにまで旅をしてきたの?)」

…とイナンナに問いただす場面があります。序の1段では、冥界は「ki-gal(キガル(大いなる地))」とも呼ばれていましたね。いろいろな呼び方があったようです。

冥界は人間が死んだら誰でも行かなければいけない場所。それはしょうがないとあきらめていました。でも、あまりそのなかでの出来事についてつきつめて考えようとはしなかったようで、「クル・ヌ・ギ祭」はあったかもしれませんが、残念ながらシュメール語のテキストにその様子は書かれていません。

暗闇の中をごにょごにょ動くのはコロスたち。この場面で彼らは冥界の裁判官アヌンナ諸神になっています。

SnapShot(12)
<暗闇の中をごにょごにょ動くコロスたち>

少し明るくなると舞台の真ん中には円筒状のものが出現します。実はこれは巨大な「円筒印章」をイメージしています。

SnapShot(15)
<円筒状のものはイナンナとエレシュキガルを描く円筒印章>

「円筒印章」とは円筒状になった印鑑です。これを粘土板の上にごろごろしてハンコにします。舞台上にある円筒印章は、イナンナとエレシュキガルを描いた円筒印章です。

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<女王の竪琴の持ち主と言われるプ・アビ女王の円筒印章:本当は小さいです>

舞台上の円筒印章を広げてみると、お馴染(このページの最初)の中川学さんが描かれた絵になります。お客様にお披露目。

SnapShot(16)
<円筒印章を広げると、この図になる>

「冥界祭」では、相撲をはじめ、さまざまな格闘技が行われています。

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<右後ろでは空手で板を割っている。それに驚く冥界の裁判官たち>

SnapShot(17)
<神事で格闘技といえば、やはり相撲>

SnapShot(20)
<「えいっ」と投げられたと思ったら…>

SnapShot(18)
<両手で体を支えて耐える…って手がついたらむろん負けですが(笑)>

相撲をとっているのは冥界の裁判官たち。演ずるのは実験道場のメンバー。我妻良樹、城ノ脇隆太、蛇澤圭佑、(平田雅大:コロスとして参加)。行司冥界の門番ネティ役をする、やはり実験道場の蛇澤多計彦。

※シュメールの祭礼に相撲などが行われていたという記述はありません。相撲は日本の国技と思われていますが、中国や韓国でも行われていました。今回は犬吠えもしました。典拠は『日本書紀』)です。冥界の人たちは隼人の役です。
秋七月壬辰朔甲午、隼人、多來貢方物。是日、大隅隼人與阿多隼人相撲於朝庭、大隅隼人勝之(天武天皇11年
)。
是以、火酢芹命苗裔、諸隼人等、至今不離天皇宮墻之傍、代吠狗而奉事者矣。(神代下段第10段一書)。

…なんて遊んでいると突然、能管の高裂音(ヒシギ)が響き渡り、冥界の女王エレシュキガルの登場が知らされます。

●エレシュキガルの登場

薄暗がりの中を、冥界の女王エレシュキガルが悠々と登場します。エレシュキガルの役はシテ方観世流杉澤陽子(はるこ)。声はワキ方の安田登です。

SnapShot(24)
<暗闇の中、冥界の女王エレシュキガルが登場する>

SnapShot(26)
<「エレシュキガル様のおなりでございます」。後方のコロスたちは礼をする>
 
・イナンナの到着

「帰らざる道」を歩み続けたイナンナは冥界に着き、冥界の門番ネティ(蛇澤多計彦:実験道場)に、「自分が到着したことをエレシュキガルに伝えよ」と命じる。

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<イナンナ、ネティに自分の来訪をエレシュキガルに伝えよと命じる>

ネティの声は浪曲師の玉川太福。下・左の写真後方で立っています。でも、これだと誰だか全然わからないので終演後の写真も。
太福 113inana
<右の写真、左:玉川太福、右:蛇澤多計彦>

・エレシュキガル怒る

イナンナの来訪を聞いたエレシュキガル怒りをなし、「冥界の7つの門を閉じ、そのひとつひとつをイナンナに開けさせ、そして門ごとに「メ」を剥ぎ取れ!」 と門番ネティに命じる。

033inana

ĝa2-nu dne-ti i3-du8 gal kur-ra-ĝu10来なさい、ネティ。我が冥界の門を守る者よ)
 ネティ:御前にござりまする。
abula kur-ra 7(imin)-bi ĝišsi-ĝar-bi ḫe2-eb-us2(冥界の7つの門をかんぬきで閉じよ)
 ネティ:は。冥界の七つの門を閉じ。
e2-gal ganzer dili-bi ĝišig-bi šu ḫa-ba-an-us2(大いなるガンゼルひとつひとつ門を手で押させよ)
 ネティ:ひとつひとつをイナンナ様に空けさせましょう。
e-ne ku4-ku4-da-ni-ta gam-gam-ma-ni (彼女が入ったあとでひざまずき)
tug2 zil-zil-la-ni-ta lu2 ba-an-de6(服をはがされたあとで人に持っていかせよ)
 ネティ:門のひとつひとつで「メ」を剥ぎ取ること。確かに承りました。


・7つの門で7つの「メ」を剥ぎ取る

門番ネティは、エレシュキガルの命令通りに7つ門を閉じてイナンナの訪れを待つ。

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<人間で作られる冥界の門>

 030inana
<門を通ると「メ」が剥がされる:これは烏帽子:šu-gur-ra men edin-na野で頭を守る被り物

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<イナンナだって黙ってはいない。ネティを打ち据える女神イナンナ>

SnapShot(41)
<しかしパラの衣を剥ぎ取られると…>

023inana
<さすがのイナンナも弱ってしまう。ちなみに裸です>

・死のまなざし

冥界の女王エレシュキガル玉座を蹴って立ち上がり、冥界の裁判官アヌンナ諸神たちは「死のまなざし」をイナンナに向け、女神イナンナは「弱い肉」にされてしまう。

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<玉座を蹴って立ち上がったエレシュキガル>

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<アヌンナたちは「死のまざなし」をイナンナに向ける>

・冥界の釘

「弱い肉」となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられた。

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<冥界の釘に吊り下げられる女神イナンナ。ちなみにイナンナ、裸です>
 
・エレシュキガルも弱まる

イナンナだけでなく冥界の女王であるエレシュキガルも弱ってしまう(なぜ?)。

47b
<弱って柱にすがりつくエレシュキガル>

明解する「冥界」その1 序の段

イナンナの「明解」下り(1)

2016年12月27日(火)にセルリアンタワー能楽堂(渋谷)で上演した『イナンナの冥界下り』にお出ましいただいた皆さま、本当にありがとうございました。また、いらっしゃれなかった皆さま、次回はぜひお出ましください。

この舞台は、もともとが古バビロニア時代、すなわち紀元前2千年紀前半(2000−1500年頃)に書かれたと思われる古代の叙事詩(神話)を元にしていますので、ちょっとわかりにくいところもございます。舞台の流れに沿って『イナンナの冥界下り』の意味などをお話してみたいと思います。

シュメール語の高井啓介先生にチェックをしていただきましたが、文責は安田登です。写真は2016年12月の公演を田島空さんに撮っていただいたものと、ビデオカメラからのキャプチャーを使いました。

題して『イナンナの「明解」下り』
※このタイトルは物理学者の江本伸悟さんが「冥界下り」と打とうとしたら「明快下り」と誤変換されたというツイートを見て、それ頂戴しました!

イナンナ3
※このイラストは中川学さん画。絵の解説はこちらにあります。(1)(2)(3)

『イナンナの冥界下り』は全412行で長大な叙事詩(神話)です。私たちの上演では、その前半部分である284行を、能楽の「序・破・急」の構造に当てはめてお送りしております。

全文をお読みになりたい方はこちらでどうぞ。
シュメール語→ETCSLのTransliteration
英訳→ETCSLのTranslation

●全体の構造

…というわけで上演用の全体の構造をまずは紹介しておきましょう。

プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)
序の段 女神イナンナ 冥界に赴く
序の1段 さまざまなものを捨て、7つの「メ」を身につける
序の2段 大臣ニンシュブルに後事を託す
序の3段 冥界への道行き
破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る
破の1段 イナンナ、冥界に到着し、エレシュキガルの怒りを招く
破の2段 7つの「メ」が剥がされる
破の3段 弱い肉となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられる
急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り
急の1段 ニンシュブル、神々のところに行く
急の2段 クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く
急の3段 イナンナとエレシュキガルが甦る
エピローグ 神送り
※ちなみに省略した後半部分は、冥界から地上に戻ったイナンナが身代わりを探すお話になります。それはそれでとても面白いのですが、それまですると上演時間が4時間ほどになってしまうので泣く泣くカットです。

今回は全体の中から「プロローグ」「序の段」についてお話をします。

●始まる前の舞台
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始まる前の舞台には中央に牛頭の竪琴、その後ろには能の作り物で「宮(みや)」と呼ばれるものが置かれます。右奥には何やら怪しいキーボード群も見えて、普段の能の舞台とはだいぶ違う趣きです。

●シュメールの竪琴

舞台の真ん中にど~んと鎮座ましますのは、牛頭のシュメールの竪琴です。

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竪琴の解説 by 高井啓介先生

この牛頭の竪琴は『女王の竪琴』ともいわれ、現在大英博物館に展示されています。

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<大英博物館蔵の竪琴>

ウルのスタンダードの饗宴の場面の最上段の右端にもこの竪琴を持った楽人が描かれています。

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<ウルのスタンダード。右上に注目>

この楽器はウルのプ・アビ女王の所有物だと思われ、彼女の墓の副葬品として発見されました。1927年にレオナルド・ウーリー卿が発掘し、1928年に大英博物館が取得しています。竪琴が作られたのは紀元前2600年頃のようです。竪琴にあしらわれている牛の頭部の目と髪とあご髭は遠くアフガニスタンから運ばれたラピス・ラズリ(瑠璃)でできていました。胴体部分は楽器の共鳴板になっていました。

この竪琴、最初はイラク(シュメールのあった国)大使館経由で、イラクの職人さんに作成を依頼していたのですが、ご存知の通り、それどころではなく、今回はアメリカのハープ製作者に本体の作成を依頼し、牛頭部分は日本でお神輿や文化財の修復などもされている方に依頼して作成しました。音階や演奏方法などは研究中ですので、今回は演奏はできませんでした。

●神殿

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<この写真は東雅夫さんのツイートから拝借>

竪琴の後にあるものは、能では「作り物」と呼ばれているものです。ほとんど舞台装置を使わない能の中で使われる数少ない舞台装置のひとつです。「作り物」にはいくつかの種類がありますが、これは「宮(みや)」と呼ばれるもの。

今回は、これが神殿や宮殿を現しますが、 イナンナの神殿冥界の神殿も両方ともこれです。舞台が天上世界ならばイナンナの神殿になり、冥界ならばエレシュキガルの神殿になります。「文脈でわかれ!」というのが能の方法です。

では、いよいよ舞台が始まります。 

▼プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)

●「よりまし」と神官の登場

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<神官と尸童(よりまし)>

薄暗い灯りの中、能管(能の笛)の音に引かれるようにして登場するふたり。向かって左は神官(安田登:能楽ワキ方)。もうひとりの怪しい人はコロス(合唱)の衣装を着ていますが、今回、イナンナを演ずる役者、尸童(よりまし)です(奥津健太郎:能楽狂言方)。神官は、コロスらとともにイナンナ女神を神降ろしして、この尸童(よりまし)に憑かせます。

能の『翁』や、チベットの『ケサル王』の叙事詩など、古代の神聖祝祭劇では、舞台の上で神が「よりまし」に憑依し、そして憑依された「よりまし」が、神として神を演じるということがよく行われます。今回の上演では、「よりまし」が舞台の上でコロスの衣装を脱いで、神であるイナンナの姿に変容して、イナンナを演じます。

登場して最初に謡うのはシュメール語『イナンナの冥界下り』の冒頭部分です。楔形文字で書くとこうなります。

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…が、このままでは「何が何だかわからない」という人が多いので、以下、シュメール語の原文はアルファベットで書きます。これだと発音ができるでしょう?

an gal-ta(アン・ガル・タ:大いなる天より)
ki gal-še(キ・ガル・シェ:大いなる地へと)
ĝeštug-ga-ni(ゲシュトゥグ・ガ・ニ:彼女の耳を)
na-an-gub(ナ・アン・グブ:立てた)


女神イナンナは、「大いなる天」から「大いなる地(冥界)」に行こうと決めるのですが、このときに「彼女の耳を立てた」という表現が面白いですね。本来なら「心を向ける」とすべきところですが、私たちの思う「心」がない時代のお話なので、内面の「心」ではなく、身体の「耳」を向けています。

ちなみになぜイナンナが冥界に行こうとしたのかの理由はどこにも書かれていません

また、この謡は上演中に何度も繰り返して唱えられますので、覚えてしまうと上演中に口ずさめます(笑)。

・コロスの登場


続いて登場するのはコロス(合唱)たちです。

コロス(χορός)とは、古代ギリシア劇の合唱隊のことです。ギリシア劇の中では、劇の背景やあらすじ、あるいは登場人物の内面などを語りますが、私たちの上演では主に「地の文」を語ります。そういう意味では能の「地謡(じうたい)」に近いでしょう。しかし、能の地謡がずっと座っているのに対して、ギリシャ劇のコロスは、身体表現もし、仮面もつけていました。今回も動くし、仮面をつけているので、やはりコロスかな…。

コロスたちは冒頭部分の詞章(アン・ガル・タ…)を呪文のように低吟しながら登場し、「よりまし」の周りをぐるぐると回ります。その間に女神イナンナが「よりまし」に憑依して、やがて物語が始まるのです。

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<コロスたちは「よりまし」の役者の周りをぐるぐる廻って憑依を促す>

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<コロスの衣装から女装に代わり女神イナンナとなった役者:中央>

ここでコロスのメンバーを紹介しておきましょう。本ブログでもお世話になっているシュメール語の高井啓介先生や浪曲師の玉川太福さんも参加しています。

大島淑夫、大金智、金沢霞、笹目有花、高井啓介、玉川太福、塚田里香、中川善史、名和紀子、松山記子(五十音順)


▼序の段 女神イナンナ 冥界に赴く

・捨てていく
 
冥界に心(耳)を向けた女神イナンナは、いよいよ冥界に向かいますが、そのために自分を祀るさまざまな神殿や、神官としての地位を捨てて行きます

コロスたちはšub(シュブ:捨てる)」mu-un-šub(ム・ウン・シュブ:捨てる)」などの言葉を強い音で発し、これからさまざまなものを捨てていくことを示します。

nin-ĝu an mu-un-šub ki mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(私の主人は天を捨て、地を捨て、冥界へと下った)
inana an mu-un-šub ki mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(イナンナは天を捨て、地を捨て、冥界へと下った)
nam-en mu-un-šub nam-lagar mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(エンの地位を捨て、ラガルの地位を捨て、冥界へと下った)
unug-ga e-an-na mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(ウルクのエ・アンナを捨て、冥界へと下った)
bad-tibira e-muš-kalam-ma mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(バド・ティビラのエ・ムシュ・カラマを捨て、冥界へと下った)
zabalam-a gi-gun-na mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(ザバラムのギグナを捨て、冥界へと下った)
adab-a e-šar-ra mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(アダブのエ・シャラを捨て、冥界へと下った)
nibru-a barag-dur-ĝar-ra mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(ニップルのバラグ・ドゥル・ガラを捨て、冥界へと下った)
kiš-a hur-saĝ-kalam-ma mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(キシュのフルサグ・カラマを捨て、冥界へと下った)
a-ga-de-a e-ul-maš mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(アッカドのエ・ウルマシュを捨て、冥界へと下った)

ここでちょっとワンポイントシュメール語講座! by 高井啓介先生
イナンナが捨てたエ・アンナとかエ・ウル・マシュとかの「エ」は、本当はex150話)ではなくて、e2E2です。エ・アンナはウルクにあるイナンナのe2(家)、エ・ウル・マシュはアッカドにあるイナンナのe2(家)のことです。

シュメール語で他に「エ」と発音する単語にはe3E3出)もあります。

日本語でも「エ」ということばには「絵」「江」それに「荏」「会」なんかもありますね。それと同じこと。もちろんシュメール人が「エ」とか「エの2」とか「エの3」とか言ってたわけではなくて、日本語と同じで文字で書き分けてました。読み方は全部「エ」です。現代の研究者が文字の読み方を発見するたびに、2とか3とかをつけていきました。だから、e
2ではなくてeで別にいいんです。

これまでにも、これからもシュメール語本文がアルファベットで書かれますけれど、もしかしたら、šeはše
3のことかもしれません。edはed3なのかも!ĝu に至ってはĝu10かもしれないんです!!でもいちいち数字を振るのはめんどくさい!数字は下付きにしなきゃだし!!だからブログではそういうことを基本的にはぶいてあります。本当のところをちょっと覗き見してみたいという方は、さっきのリンク(ETCSLのTransliteration)をクリックしてシュメール語本文を確認してみてください!

・7つの「メ」
神殿や地位を捨てたイナンナは、冥界に向かうために7つの「メ」を身につけます。「メ」というのは、あるいは「神の力」、あるいは「霊力」などと言われています。 

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<「メ」を持ってくるコロスたち:このコロスは実験道場の面々>

舞台の上ではコロスたちが「me mu-un-ur-ur(「メ」を探す)」を何度も何度も繰り返して謡っています。「長いなぁ…」と感じる方もいらっしゃるでしょう。あるいは呪文のような繰り返しに半分あっちの世界に行ってしまう方もいるでしょう。それが神聖祝祭劇なのです。

さて、イナンナが身につける7つの「メ」は以下のものです。

šu-gur-ra men edin-na(野で頭を守る被り物)
na-za-gin di-di-la(小さなラビスラズリ)
na-nunuz tab-ba(卵形のラピスラズリのビーズ)
pala tug nam-nin-a(女主人の衣装のパラ)
šembi lu he-em-du he-em-du(「男よ来い、男よ来い」という眉墨)
 tu-di-da lu ĝa-nu ĝa-nu(「男よ来い、男よ来い」という胸飾り)
har kug-sig(金の腕輪)
gi-diš-nindan eš-gana za-gin(測り棒と測り縄)

5番目の「男よ来い、男よ来い」という眉墨(シェンビ)。前回は舞台上で眉墨を書きましたが、今回は狂言面でそれを表現しました。

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<左から「測り棒と測り縄」、「首飾り」、「金の腕輪」を持つコロス>

SnapShot(5)
<神官が「メ」をつけている間、「メ」を持つコロスはなぜか踊っています(笑)>

SnapShot(6)
<すべての「メ」を身につけた女神イナンナ>

また、「メ」に関しては、過去のブログや『みんなのミシマガジン』にも書きましたので、どうぞ~。
http://inanna.blog.jp/archives/1031419592.html
http://www.mishimaga.com/coffee-issatsu/013.html

 ・ニンシュブルに託す

冥界に赴こうとする女神イナンナは、大臣であるニンシュブル(Junko☆:実験道場)を呼び、「もし自分が三日三晩帰られなければ神々のもとに行くように」と託します。上掲の原文では28~72行の部分です。

長い…。

一昨年に「山のシューレ」@二期倶楽部で上演したときにはすべてやったのですが、さすが長すぎるので、今回はちょっと省略しました。それでも長い。

SnapShot(7) 祈り
<イナンナに呼ばれて馳せ参じるニンシュブル。彼女の手は礼拝の形>

SnapShot(10)
<イナンナに後事を託されるニンシュブル>

ちなみに女神イナンナの声を担当するのは声楽家の辻康介。そしてニンシュブルの声は浪曲師の玉川奈々福です。

058inana 012inana
<辻康介(左)・玉川奈々福(右)>

・冥界に向かう

7つの「メ」を身につけ、そしてニンシュブルに後事を託した女神イナンナは冥界へと旅立ちます。

帰らざる道を辿り辿り
  あらゆる地位や神殿を捨て
行くも帰るもこれやこの
  7つの霊力を身につけ
逢う人もなき黄泉の坂
  イナンナはただひとり
行けばほどなくむばたまの
  冥界への道を辿りつつ旅を続けた

イナンナの冥界下り2016カウントダウン(2)楔形文字の解読

12月27日(火)に上演する『イナンナの冥界下り』カウントダウンの第2弾です。

前回は、中川学さんの図像の解説をしました。今回は、左側に書かれているものを解読することにしましょう。

楔形文字とシュメール語の解説は高井啓介先生。で、それをもとに以下を書いたのは安田です…ので、文責は安田にありま~す。

イナンナ3
 
▼楔形文字

左側に書かれている、これ。

楔形文字

そう。これは中学校や高校で、おそくら名前だけは聞いたことのある「楔形(くさびがた)文字」です。楔形文字は、シュメール人が発明した世界最古の文字です。

シュメール人といえば、四大文明のひとつ、古代メソポタミア文明を担った人たちです。現在のイラク周辺。チグリス川ユーフラテス川に挟まれた土地に住んでいました。

でも、シュメール人と聞くと「おお!」という人がいるでしょう。『ムー』を始め、ちょっと怪しい系の本や雑誌でよく取り上げられます。ネットで「シュメール」を検索すると、これまた怪しい話がたくさん。それらの真偽はともかく、でも確かにシュメール人がどこから来たのか、そしてどこに消えてしまったのかはよくわかってはいません(約BC3,500年~BC2,000年)。

突然、出現して文字を発明して、そしてそのおかげで高度な都市文明独自の文化を発達させ、そしてまたどこかへ消えてしまった謎の民族です。

12月27日(火)に上演する『イナンナの冥界下り』は、そんなシュメール人の残した神話を、シュメール語と、そして能(日本語)で上演しようという試みです。今回はさらに電子音楽ヒップホップが加わり、わけのわからなさ満載です。

さて、シュメール人は文字を発明しましたが、しかし、とはいえむろん誰でもが文字を読み書きができたわけではなく、基本的には「書記」と呼ばれる人たちだけが文字を操っていたようです(例外もあり)。

筆記具は、ユーフラテス川に生えていた葦をペン状にしたものです。その先端を粘土を板状にしたもの(粘土板=タブレット)に押し付けて楔形文字と呼ばれる文字を刻みました。てんらいの高井啓介先生のワークショップでは、皆さんと一緒に実際に粘土板に楔形文字を刻み込むこともします。

さて、これからこの楔形文字を読んでいきたいと思います。

この時代にはまだアルファベットは存在しません(当たり前ですね)が、どんな読み方をしていたかを知っていただくため、便宜的にアルファベットで「音」を表現しました。

楔形文字のひとつひとつには「意味(訓)」があり、また同時に同じ文字が「音」を表すこともあります。漢字のようですね。また、語順も日本語とよく似ており、漢字文化に親しんだ我々にはとても理解しやすいことばなのです。 

▼解読の準備

では、実際に解読をする前に、まずは 全体をざっと眺めておきましょう。

楔形文字


行は6行ありますね。英語などと同じく、左から右へ読みます。

楔形文字を始めて読むときには、文字と文字の区切りもよくわからないと思いますが、よく見てみると、同じ文字が何度か使われているのに気づきますか。 

たとえば1行目の3文字目(anと読みます)。これです。

0103

これは、 同じ行の5文字目と同じですね。また2行目の3文字目とも同じです。さらに4行目の1文字目と2文字目にも表れます。そして、ちょっと形は変わっていますが、実は3行目の3文字目も同じ文字です。

また、 3行目の1文字目(meと読みます)。これです。

0301

これは5行目の4文字目(後ろから2字目)と同じです。

このほかにもいくつかあります。

一度、この文章を書写してみると(意味はあまり気にせずね)、いろいろと見えてきます。

▼1行目
 
では、1行目から読んでいくことにしましょう。

01

●最初の文字はこれです。

0101

この字は「a(ア)」と発音します。もともとは「水」を現す楔形文字ですが、ここでは「父」という意味で使われています。

ちょっと余談ですが、漢字の「父」は「斧(おの)」という漢字の上に使われるように、もともとは「斧(おの)」を手に持っている形です。また、「自」という漢字は「鼻」の象形で、もともとは「鼻」を意味しました。このようにもともとの意味が、違う意味で使われることは漢字でもシュメール語でもよくあります。

で、ここでは「父」という意味です。

●次の文字はこれです。

0102

この字は「ĝu(グ)」と発音されます。

正確には「ク°」、鼻濁音です。以下、鼻濁音には「°」を付けますが、鼻濁音が発音できない方、あるいは「鼻濁音って何だかわからな~い」という方は頭の中で「グ」と変換してお読みください。

意味は「私の」になります。

ちなみにシュメール語を学んでいる人は「ĝu10」なんて数字をつけて書きます。

この数字は何かというと、漢字でも同じ発音をする漢字ってあるでしょ。たとえば「カイ」という発音の漢字は「会」「回」「界」「貝」などいっぱいあります。それを「会(カイ1)」「回(カイ2)」「界(カイ3)」「貝(カイ4)」なんてやるようなものです。発見された順番につけているようです。

…というわけで、以下、数字をつけますね。でも、発音は同じなので気にしないでください。

●では、いまの2つを続けて読むと…

01010102

発音は「a-ĝu10(ア・ク°)」で、「私の父」という意味になります。

●それでは3文字目

0103

これは何度も出てきた文字でした。こういうのは覚えてしまうと後が楽です。紙を出して何度か書いてみましょう。

発音は「an(アン)」です。

この文字にはいろいろな意味がありますが、主に「天」「神さま」、そして「an(アン)」という「音」だけでも使われます。

ここでは「天」という意味で使われています。

●あとは続けて…

次の4文字は続けてみてみましょう。

0104

これは「ma(マ)」「an(アン)」「ze2(ゼ)」「eĝ3(エク°)」と発音します。

2文字目に「an(アン)」が見えるでしょう。気がつきましたか。

「ma-an-ze2-eĝ3(マ・アン・ゼ・エク°)」の意味は「与えた」です。

ここでは文法的な説明はしませんが、「ma-an-ze2-eĝ3」という言葉の中で「与えた」という意味は最後のふたつ「ze2-eĝ3(ゼ・エク°)」です。あとのふたつで「彼は・・私に」という意味があることが暗示されるのですが、まあ、そこら辺は気にせずに…。

気になる方は、ぜひ高井啓介先生のワークショップで粘土板に楔形文字を刻みながらどうぞ~。

●では、一行目の意味を続けてみてみましょう。アルファベットで書きますね。

a(父)-ĝu10(私の) an(天を) ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)

はい。意味をつなげます。

「私の・父は・(私に)・天を・与えた」となります。

私の父は私に天を与えた。

おお!簡単。

文法の勉強を全くしていないのに読めてしまう!

これがシュメール語の特長です。

▼2行目

では、この調子で2行目も見てみましょう。

02

これは読み出す前に、1行目と比べてみます(わかりやすいように2行目をちょっとずらしました)。

01+02

あれ?似てますね。後半の4文字が同じです。

いま、やった「ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)」です。

そして、1行目の最初の2文字「a(父)-ĝu10(私の) 」は2行目にはありません。

で、3文字目の「an(天を)」が違う文字になっています。

0201

…となると、この文字さえわかればOKですね。

なんとなく想像がつきますか。「天」に対するもの。そうです、これは「地」です。発音は「ki(キ)」

では、この文もアルファベットで書いてみましょう。

ki(地を) ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)

「地を私に与えた」という意味になります。

▼1行目と2行目

「私の父」というのはエンリル神という神さまです。「私」というのは女神イナンナです。

最初の2行は「父、エンリル神は、私(イナンナ)に天を与え、地を与えた」という意味になります。

では、今日はここまで。続きをお楽しみに~!

イナンナバナー

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残席、あと10席ほどになりました。お申し込みはお早めに!
おかげさまで完売いたしました。ありがとうございました。

■日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 全席自由5,000円(てんらい会員は1,000円引き)
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)

セルリアンタワーまでの行き方動画by実験道場
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https://www.youtube.com/watch?v=g27yDsISEXY&feature=youtu.be 


イナンナの冥界下り2016カウントダウン(1)

12月27日(火)の『イナンナの冥界下り』2016年冬バージョンの上演、一週間を切りました。

当日、みなさまにお配りするパンフレットのイラストを、浄土宗西山禅林寺派、京都瑞泉寺の僧侶にしてイラストレーターでもある中川学さんに描いていただきました。今回は、その図像の意味をシュメール語の高井啓介先生による解説でお届けします。

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▼ふたりの女神

この図像、パッと見ると、ふたりの女性が立っているのが見えますね。

これは天の女王イナンナ女神(左)と冥界の女王エレシュキガル女神(右)です。

ふたりが頭にちょっと変(!)な形の冠をかぶっています。これは「角冠」と呼ばれ、メソポタミアでは神を表現する一つの象徴と考えられています。

二人の神が手にしている、棒と縄、棒と輪は、物の長さを測る基準となるもので、神が世界にもたらす正義の象徴とされています。

では、ひとつひとつの図像を見ていくことにしましょう。

▼イナンナ

まずは、左側のイナンナ女神です。

イナンナ

彼女は、身にまとう「メ(神威)」の一つとして測り縄測り棒を両手に持っています。
 
頭の左側にキラキラと輝く星の三角形を数えてみると8つあります。これは八芒星金星の象徴です。女神イナンナは金星の女神でもあるのです。金星といえば英語でヴィーナス。そう、イナンナは後世、イシュタル、アプロディテ、ヴィーナス(ウェヌス)になります。

今回は狂言方(能楽師)の奥津健太郎が演じ、声は声楽家の辻康介が担当します。

▼ニンシュブル女神

ニンシュブル


イナンナ女神の左にひかえるのがニンシュブル女神。『イナンナの冥界下り』の中ではイナンナの大臣として登場します。彼女はイナンナが冥界で死んだあと、シュメール都市の神殿を巡り歩いて、イナンナを生き返らせて欲しいと神々たちに嘆願します。

演じるのは実験道場のJunko☆。声は玉川奈々福です。 

▼エレシュキガル

次に右側のエレシュキガル女神

エレシュキガル  QueenOfTheNightBW

冥界の女王エレシュキガルは大英博物館蔵の、有名な『天の女王(あるいは「夜の女王」)』と呼ばれるレリーフをモデルにしました。

足元に注目!足の指が人間のそれではありませんね。鳥の脚になっています。

彼女はイナンナのお姉さんなので、ちょっと上から目線。

エレシュキガルがその手に持つのは「棒」と「輪」を組み合わせたもので、支配権の象徴であるとも考えられています。

当日は、観世流シテ方の杉澤陽子が演じ、声は安田登が担当します。

▼門番ネティ神

ネティ

エレシュキガルの右側に控えるのがネティ神。鍵を持っていますね。彼は冥界の入り口にあるというガンゼル宮殿の七つの門を守る門番です。イナンナは七つの門をくぐるたびに、身にまとったメを一つずつ彼にはぎとられていくことになります。

七つの門ということで七体のネティが描かれています。

ネティを演じるのは実験道場の蛇澤多計彦、声は浪曲師の玉川太福です。

▼アヌンナ諸神

アヌンナ

右上にいる4柱の神々は、イナンナに「死の眼差し」を向け、弱い肉(死体)にしてしまう冥界の裁判官アヌンナ諸神です。本当は7柱なのですが、図像では4柱、本番では実験道場の方たちやコロス(合唱)の面々とたくさんの人がそれを演じます。

実験道場:我妻良樹、城ノ脇隆太、蛇澤桂佑、平田雅大
コロス:大島淑夫、大金智、金沢霞、笹目有花、高井啓介、塚田里香、中川義史、名和紀子、松山記子(五十音順)
 
▼2体の精霊

クルガラガラトゥル

イナンナとエレシュキガルの後ろに飛んでいる2体の精霊は「クルガラ」「ガラトゥル」エンキ大神が、冥界に行って戻らぬイナンナを助けるために、自身の爪の垢から作った精霊です。

イナンナの後ろにいるのがクルガラ。手には「命の草」を持っています。エレシュキガルの後ろにいるのがガラトゥル。手には「命の水」を抱えています。

二人はその羽で自由に冥界の門を越えていき、イナンナのもとにたどりつきます。そして二人が命の草と命の水をイナンナに振りかけるとき、イナンナはよみがえるのです。

舞台では二人の子方によって、クルガラとガラトゥルの動作が軽やかにそして爽やかに演じられます。

クルガラを奥津健一郎、ガラトゥルを笹目美煕が演じます。

▼ エンキ神

エンキ
 
イナンナとエレシュキガルの間には、上部に、エレシュキガルを象徴する冥界の月が描かれています。また、下部には、イナンナとされる金星(八芒星)が、文字を表現するのに使われた楔を使って見事に描き出されています。

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<楔形文字>

そして月と金星との間には合掌する神様が描かれています。

よく見ると肩から水が溢れ出ていますね。この神様は水を司るエンキ神。冥界で殺されてしまったイナンナを甦らせた知恵の神です。

▼音楽
当日の音楽は、能楽師笛方の槻宅聡に加えて、今回はなんと!音楽家・DJのヲノサトル他が担当。面白くなりますよ。
 
全体の監修や翻訳は高井啓介(大学教員・シュメール語講師)です。ちなみに高井先生はコロスとしても出演されます。

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残席、少しになりました。お申し込みはお早めに!

■日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 全席自由5,000円(てんらい会員は1,000円引き)
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)

『イナンナの冥界下り』新バージョンの上演決定

『イナンナの冥界下り』新バージョンの上演決定
 
イナンナバナー

お待たせしました!『イナンナの冥界下り』が新バージョンでの上演が決定しました。

日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
場所 セルリアンタワー能楽堂
料金 全席自由5,000円(会員は1,000円引き
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
予約 てんらい事務局
event@inana.tokyo.jp
080-5520-1133(9時~20時)

『イナンナの冥界下り』は、およそ紀元前2,000年にシュメール語(楔形文字)で書かれた世界最古の女神神話を、現存する世界最古の演劇である「能楽」を中心に、シュメール語と日本語で上演する祝祭儀礼歌舞劇です。

昨年(2015年)度に、山のシューレ(那須、二期倶楽部)、セルリアンタワー能楽堂(渋谷)、日本デザインセンター(銀座)で上演し、今年度に浅草の西徳寺さんで上演しましたが、来年度の欧州公演に向けて、今回は新バージョンでの上演を企画しました。

人気の「能楽堂公演」です。お早めにご予約をお願いいたします(って、実は会員、メルマガ、寺子屋参加の方にはお知らせし、すでに1/4のお席が埋まっております)。

【3行あらすじ】
『イナンナの冥界下り』というのはどういう神話なのか。ざっくりと3行でお話しましょう。

(1)天と地を統べる女神イナンナは、唯一自分の手の及んでいない冥界に、7つの「メ(神力)」を身につけて向かった。

(2)イナンナの突然の来訪に怒った冥界の女王エレシュキガルは、イナンナの「メ(神力)」をすべて剥ぎ取って裸にし、冥界の釘にぶら下げた(地上は暗黒の冬世界となる)。

(3)大神エンキが差し向けたクルガラ、ガラトゥルの力によってイナンナは甦り、地上にも春が戻った。

詳しいあらすじはこちらで。

【新バージョン:今までとどう違うのか】
「新バージョン」といっても、今までとどう違うのか。これも簡単にお話します。

●祝祭儀礼性が増す
古代の叙事詩は、薪の火によって妖しく彩られた祭りの場(にわ)で上演されたと思われます。これは、もう薪能そのものです。

薪能は、本来は春の神様をお迎えする祝祭儀礼でした。それは、イナンナの死によってもたらされた冬の季節が、その甦り・再生によって春の季節を再び迎える『イナンナの冥界下り』の神話にぴったりです。

今回の上演では、天地を統べる女神イナンナに奥津健太郎(能楽師狂言方)、エレシュキガルに杉澤陽子(観世流能楽師)を迎え、能楽の要素を前面に押し出すことにより、より祝祭儀礼性が増した上演になります。

●楽しさが増す
祝祭儀礼性、能楽を前面に!といっても堅苦しいものではありません(あ、堅苦しいところもあります)。

古代の祭りの場(にわ)では、人々は怪しい薬草の入った霊酒を飲み、生贄に捧げられたお下がりの肉を喰らい、酩酊、興奮状態で観た、というよりも参加したはずです。

能楽堂での公演なので、さすがにお酒を出したり、焼いた肉をお出しすることはできませんが、『海神別荘』でも、びっくりするようなパフォーマンスを見せてくれた実験道場の皆さんをお迎えし、皆さまが酩酊、興奮状態になるような楽しいパフォーマンスもご覧いただきます。

●音楽が多彩に
音楽は、能管の槻宅聡に加えて、今回は電子音楽のヲノサトルも参加します。

さてさて、どんな音楽が繰り広げられるか。どうぞお楽しみに!

●シュメールの竪琴が登場
大英博物館に収められているシュメールの竪琴の作成をアメリカのハープ作者に依頼していたものが出来上がって来ました。チューニングや弦の問題もあり、今回はまだ使えませんが、象徴として舞台に出現します。紀元前2,000年の竪琴がどんなものか、とくとご覧あれ!

【配役】
女神イナンナ  奥津健太郎、辻康介(声)
冥界の女神エレシュキガル  杉澤 陽子、安田登(声)
大臣ニンシュブル  Junko☆、 玉川奈々福(声)
ネティ(冥界の門番)  蛇澤多計彦、玉川太福(声)
語り  玉川奈々福
音楽  槻宅聡、ヲノサトルほか
コロス、冥界の裁判官  
 大島淑夫 大金 智
 金沢 霞 高井啓介
 塚田里香 中川善史
 名和紀子 松山記子
     五十音順

昨年の能楽堂公演は、昼夜公演があっという間に一杯になり、また4月の西徳寺公演もお立見の出る盛況でした。どうかお早目にご予約をお願いいたします。

event@inana.tokyo.jp
080-5520-1133(9時~20時)

<チラシです:クリックすると拡大します>
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チラシ裏とんぼなしsmall地図なし




『海神別荘』への道(2)海神別荘寺子屋 第一回目01

「海神別荘寺子屋 第一回目01」

これから数回に分けて、2月1日(2016)に東江寺(広尾)さんで19時より行われた『海神別荘』寺子屋  第一回目の模様をお送りします。ちなみに次回は29日です。受講料はお賽銭。飛込みも歓迎ですが、テキストの用意もございますので、事前にメールをいただけると助かります。

info@watowa.net

▼お化けの専門家といえば東さん
 
海神別荘寺子屋01

安田 こんばんは。こちらは今日のゲスト、東雅夫さんです。

 よろしくお願いします。

安田 先般、東大の経済学部の学生が主体になって「大人の教養学部」という講座を開講しました。その監修を依頼されて、まずは第一期を「宗教と価値観」というテーマにしました。僕たちは外国に行くと「自分は何者なんだろう」という問いが突きつけられることがあります。その答えは個々人が考えるべきことなのですが、その自分を作っているさまざまなことを「宗教」という観点からみていこう、という講座です。

「宗教と価値観」というテーマにしたときに、最初に思い浮かんだのはもちろん「神道」「仏教」です。ところが、僕たちはお寺というと、たとえば「四諦八正道」などという仏教の教理というよりは、まずはお墓がイメージされて、さらには幽霊だとか人魂だとか、そんなものがイメージされます。実は日本人の宗教観の中心というのは、仏教的な深遠な教理や、神道の国学的な話ではなくて、お化けだったり妖怪だったり、そういう怪異現象なんじゃないかと思ったのです。

 ですから宗教観を考えるのに、神道、仏教だけでなく、やはり妖怪、怪異を入れるべきではないかということで、神道は神田明神の禰宜の清水祥彦さん、仏教は釈徹宗先生にお願いしたのですが、妖怪・怪異といえば、もうこれは日本広しといえども東さんしかいないんじゃないかと。いま日本でお化けを語らせたら、東さん。あ、水木しげる先生もいらっしゃいますが亡くなられてしまって…。

 いきなり、とんでもない方と較べないでくださいよ!(汗)

安田 東さんと水木先生の大きな違いは、水木先生は半分あっちの世界にいらっしゃった、東さんはわりとこっちの世界にいながら、あっちを語るという希有な方ですね。

 昨日たまたま水木先生のお別れ会が青山斎場でありました。なんと8千人くらいの参列者があったようです。葬儀委員長は荒俣宏さんで、京極夏彦さんが司会を務めて。ニュースでも流れていたので、ご覧になった方も多いかと思うんですけど、京極さんがデザインされた祭壇がユニークでね。中央に丸い輪があって、その中に水木さんの遺影が飾られている。この丸い輪は、この世とあちらの世界の境目で、水木さんはたまたま輪の向こう側にいらしてしまったけれども、ちっとも亡くなったという感覚は僕にはありません、と京極さんが開口一番おっしゃって。きっと、今この瞬間も向こう側から、こちらのことを見守っているに違いない、と。弔辞を読まれた皆さんも口々に、水木さんは、あの世へ引っ越しただけ、ちょっと旅行に出ただけ……とおっしゃっていました。まさに、そういうスタンスの方でしたよね。

安田 ちなみに「大人の教養学部」の一番最初は、いとうせいこうさんにお願いしまして、東さんの回は3月の2日です。ぜひどうぞ!

今日はもう一人のゲストにお越しいただきまして、こちら、お馴染みの奥津健太郎さんです。

奥津 こんばんは。

安田 奥津さんは能楽師の狂言方ですが、すごく昔からの知り合いという甘えで、僕が作る作品では、一番大変な部分を奥津さんにお願いしてしまいます。台詞も多いですね、いつもね。

奥津 はい。まあ、わりと。でもいろいろ御配慮もあるので、なんとかやっているという感じなんですけども(笑)。

安田 台詞も多いし、直前に変わるしね。直前って、どのくらいで変わるかというと、本番の30分前に変えることがありますよね。

奥津 あの、前、始まってから変わったことが(笑)。

安田 そういうこともありました。

▼鏡花のまずは一冊

安田 で、今日は前半は、鏡花の話を。

 今日は、3月5日に亀戸のカメリアホールで公演をする『海神別荘』にちなんだ寺子屋ということで。とはいえ、いきなり『海神別荘』の話をするのも唐突かなと思いますし、29日の寺子屋でもお話をさせていただく予定なので、今回は『海神別荘』の作者である泉鏡花という作家のことを──どんな人で、どんなものを書いていたのか、ということを、前半でお話ししたいなと思っています。

 最初に皆さんにお伺いしますが、泉鏡花の作品──まあ、いろいろありまして、初期の例えば「夜行巡査」とか「外科室」という深刻小説と呼ばれた出世作から、「高野聖」であるとか、あるいは「草迷宮」「春昼」といった怪奇幻想を極める名作群。晩年にも「歌行燈」のように能とも大変に関わりの深い作品があったり、いろんな作品があるんですが、つらつら思い返してみていただいて、鏡花作品を何作くらいお読みになったことがあるかを訊いてみたいと思います。
 
 例えば10作以上、読んでるよという方、手を挙げていただけますか?

 おお、はい、わかりました。ということは、皆さん10作以下ということでよろしいですね(笑)。

 5作から10作くらいは読んだよという方、ああ、はい。……ということは、皆さん1作から4作ぐらいだったら読んだことあるよという方、手を挙げてみてください。

 はい、ちょっとホッとしました。一度も読んだことのない方も、いらっしゃいますね。いや、それが今では普通で
す……。

安田 読み通せなかったという人も……。

 そう、そのパターンが多いでしょうね。

鏡花の文章というのは、『海神別荘』もト書きの部分がそうですけれども、江戸文学の素養がとても豊富にあった人なので、当時としても相当に古風な、しかも絢爛華麗なレトリックなんですね。華麗すぎて何を言ってるのか時々よくわからなくなるというくらい(笑)。

それは専門家の先生方でもそうで、ここはどういう意味なんだろうね、と研究会でも問題になったりするくらい。ですから、この種の文章を読み慣れていない方が、いざ鏡花作品に手を付けたはいいけれども、なかなか読み通せないのも無理からぬことだと思います。

 とはいえ、決してそういう作品ばかりではありませんし、会話の多い作品、特に戯曲はね、『天守物語』もそうですし、『海神別荘』『夜叉ケ池』もそうなんですけど、実に流麗で格調高い名調子、美しい日本語がずっと連なっていくという傑作が、いくつもあります。坂東玉三郎さん主演の舞台でも、おなじみですね。

安田 映画にもなっていますしね。ところで突然お聞きしていいですか? 読み通せなかった方のために、これだったら大丈夫そうだという作品を挙げていただけますか。

 うーん。宣伝みたいで気がひけるんですけれども、私が平凡社ライブラリーから編纂刊行したおばけずき 鏡花怪異小品集というアンソロジーがありまして、これの編纂動機のひとつは、今まさに安田さんがおっしゃったように、鏡花を読み通せないという方に向けて、比較的とっつきやすい作品を集めて提供しようということでした。

それで小品とか随筆、談話など、短いもので、しかも怪しいお話を集成してみたわけですね。いずれも鏡花にしてはわかりやすく、普通の言葉というのも変ですけども、わりと肩の力を抜いた感じで書いたり語ったりしている作品が多いので、鏡花世界入門には手頃ではないかと思います。

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おばけずき 鏡花怪異小品集』(平凡社ライブラリー:泉 鏡花、 東 雅夫)
 
安田 これ一冊読めると、さっきの10から15の中に突然入れるということに……。

 そうです!(笑)

<続く>

『海神別荘』への道 0102→03(未)
語りを考える(玉川奈々福)


▼『海神別荘』公演 ご予約の方法

日時:3月5日(土)14:30開場 15:00開演 
場所:亀戸・カメリアホール
(JR総武線で秋葉原から4駅8分「亀戸」駅下車 北口徒歩2分)

全席指定 予約5000円 当日5500円
※「てんらい会員」の方は1,000円引きになります。
「てんらい」の会については以下をご覧ください。

http://inanna.blog.jp/archives/1033520801.html 

ご予約の方法は3通りございます。

・カメリア・ホールに直接お申し込みいただく(てんらい割引はございませんのでご注意を!)
03-5626-2121 インターネット予約もございます。
http://www.kcf.or.jp/kameido/concert_detail_010500300307.html 

・てんらい事務局にご連絡いただく
てんらい会員の方は割引料金でご予約いただけますので、てんらい事務局、あるいは出演者の方にお申し込みくださいませ。
てんらい会員入場料:全席指定 予約4000円 当日4500円
event@inana.tokyo.jp
080-5520-1133(9時~20時)

・出演者にお申し込みいただく
チケットを扱っている出演者は、 東雅夫奥津健太郎玉川奈々福です。この3人に直接、お申し込みいただくこともできます(他に出演者にもお申し付けいただくことはできます)。

出演:安田登(能楽師ワキ方下掛宝生流)、槻宅聡(能楽師笛方森田流)、奥津健太郎(能楽師狂言方和泉流)、百鬼ゆめひな(人形師)、玉川奈々福(浪曲師)、蜜月稀葵(ダンサー)、新井光子(チェリスト)、東雅夫(作家) ほか

お待ち申し上げております。
 

『海神別荘』への道(1)

yasuda
(安田登)
今日はこれから『イナンナの冥界下り』の日本デザインセンター公演なのですが、これから何度かに分けて『海神別荘』について書いていきます。

海神小

本年、3月5日(土)にカメリア・ホール(亀戸)で上演する泉鏡花の『海神(かいじん)別荘』。泉鏡花戯曲の最高傑作をうたわれながらも、その生前には一度も上演されなかったこの作品を、能・狂言を中心に、人形、浪曲、ダンスなどで料理してお届けいたします。

この作品を上演したい!と思ったのは、「3.11」の日でした。このことに関しては長くなりますので、また別の機会にお話しますね。

▼『海神別荘』の上演を躊躇させる理由

さて、泉鏡花の最高傑作とうたわれながらも『海神別荘』が鏡花の生前には上演されなかったというのは、上演が難しいからです。ただ、上演するだけなら誰でもできます。でも、戯曲を読んだ演出家や役者は「これは上演しても面白くはならないんじゃないか」と思ってしまうのです。

これってマラルメが『半獣神の午後』を上演台本として書いたのに、結局はどこも上演させてくれなかったのに似ていますね。そうなんです。マラルメの『半獣神』と鏡花の『海神別荘』には、共通点があるのです(これも後日)。

で、まずは何がこの作品の上演を躊躇させるのかを考えてみました。

(1)何も起こらない
演劇やドラマの基本構造は「男がいて、女がいて、そのふたりの間に葛藤が起き、最後にそれが解決して大団円を迎える(男・女でなくても可)」だといわれています。

ところがマラルメも鏡花も、何も起こりません。小事件は起こります。でも、それは葛藤にはならず、だから大団円もなく、見終わったあとの「ああ、よかった」というカタルシスにもつながらないのです。

こりゃあ、「上演してもつまらないかも」と思うのももっともですね。 

(2)登場人物に感情移入ができない
私たちは演劇やドラマを見ると、登場人物の誰か(多くは主人公)に感情移入をします。だからこそ、葛藤ではドキドキするし、大団円ではスッとします。

が、『海神別荘』の登場人物は、海底の宮殿に住む非・人間。やっと現れた人間(美女)ですら人身御供にされているので、もう死んでいます。

誰にも感情移入ができないのです。鏡花はとことん観客を突き放しています(笑)。

(3)彼岸から語る物語
当たり前の話ですが、ふつうの物語は「この世」のお話です。あの世のことを物語る、怪談や幻想文学も、だいたいが「この世」から「あの世」を描きます。

ところが『海神別荘』は、あの世からこの世を語っているのです。これは珍しいし、まあ、そりゃあ感情移入なんてできないだろうね、って感じなのです。

▼なら「芸尽くし」で

この3つの理由。

(1)何も起こらない、(2)登場人物に感情移入ができない、(3)彼岸から語る物語
 
…って、確かに上演が難しいのはわかりますね。

でも、待てよ、これってどこかで…

そうなのです。これは「能」と同じなのです(我田引水ですみません)。

劇作家のポール・クローデルは能を評して「劇、それは何事かの到来であり、能、それは何者かの到来である」 と書きました。

おお!ならば「能」の手法を使えば、料理できるんじゃないか!と気づいたのです。

でも、「能って、あの退屈なやつでしょ」と思う方もいらっしゃるでしょう。いえ、いえ。静かで、内面に入っていくものだけが能ではありません。さまざまな「芸」を見せる、「芸尽くしの能」というのもあるのです。

で、ひょっとしたら『海神別荘』も「芸尽くし」で上演できるのでは、と思って台本を読み直してみたら、鏡花先生、「芸尽くし」の要素を台本の中にちゃんといくつも入れてくださっておりました。

▼「芸尽くし」の例をご紹介

さて、『海神別荘』の中の「芸尽くし」ですが、たとえば!

海神の公子は、人身御供としてもらい受けた美女の父親に「身の代」を送るのですが、その一覧表を読むところ。これはリズムに合わせて読み、さらにはそれが面白くなって思わず舞を舞いたくなってしまうような書き方がされています。

今回の上演では「沖の僧都(海坊主)」が舞を舞い、童子がタップを踏みます。

真鯛大小 八千枚
鰤(ぶり)、鮪(まぐろ)ともに二万疋(びき)。
鰹、真那鰹(まながつお)各(おのおの)一万本。
大比目魚(おおひらめ) 五千枚。
鱚(きす)、魴鮄(ほうぼう)、
鯒(こち)、鰷身魚(あいなめ)、
目張魚(めばる)、藻魚(もうお)、合せて七百籠(かご)
…(続く)

また、部屋を双六盤に見立てて、人間将棋のように侍女たちが東海道五十三次の「人間双六」をするところがあります。この遊びも侍女と童子で「芸尽くし」として上演しますが、浪曲師の玉川奈々福さんと童子によって三味線を弾きながらの「東海道五十三次の歌」が歌われます。

都路(みやこじ)は
五十路(いそじ)あまりの三(み)つの宿、
時得て咲くや江戸の花、
浪静(しずか)なる品川や、
やがて越来(こえく)る川崎の、
軒端ならぶる神奈川は、
早や程ヶ谷に程もなく、
暮れて戸塚に宿るらむ。
紫匂う藤沢の、
野面(のおも)に続く平塚も、
もとのあわれは大磯か。
蛙(かわず)鳴くなる小田原は…

このほかにも「鮫に襲われる侍女のあ~れ~」とか「美女、大蛇に大変身」などなどたくさんあるのです。そんなわけで能の「芸尽くし」として上演する予定の『海神別荘』、どうぞご覧いただければと存じます。

(続く)次回は東雅夫さんをゲストに先日行われた『海神別荘』寺子屋の様子をお知らせいたします。(次回の『海神別荘』寺子屋は2月29日:月曜日です)

 ▼ご予約の方法

3月5日(土)14:30開場 15:00開演 
場所:亀戸・カメリアホール(JR総武線で秋葉原から4駅8分「亀戸」駅下車 北口徒歩2分)

全席指定 予約5000円 当日5500円
※「てんらい会員」の方は1,000円引きになります。
「てんらい」の会については以下をご覧ください。
http://inanna.blog.jp/archives/1033520801.html 

ご予約の方法は3通りございます。

・カメリア・ホールに直接お申し込みいただく(てんらい割引はございませんのでご注意を!)
03-5626-2121 インターネット予約もございます。
http://www.kcf.or.jp/kameido/concert_detail_010500300307.html 

・てんらい事務局にご連絡いただく
てんらい会員の方は割引料金でご予約いただけますので、てんらい事務局、あるいは出演者の方にお申し込みくださいませ。
てんらい会員入場料:全席指定 予約4000円 当日4500円
event@inana.tokyo.jp
080-5520-1133(9時~20時)

・出演者にお申し込みいただく
チケットを扱っている出演者は、 東雅夫奥津健太郎玉川奈々福です。この3人に直接、お申し込みいただくこともできます(他に出演者にもお申し付けいただくことはできます)。

出演:安田登(能楽師ワキ方下掛宝生流)、槻宅聡(能楽師笛方森田流)、奥津健太郎(能楽師狂言方和泉流)、百鬼ゆめひな(人形師)、玉川奈々福(浪曲師)、蜜月稀葵(ダンサー)、新井光子(チェリスト)、東雅夫(作家) ほか

お待ち申し上げております。 

いよいよ始まる「海神別荘」プロジェクト

泉鏡花の最高傑作『海神別荘』を幻想楽劇として上演

海神小


『イナンナの冥界下り』に続いて「てんらい」がお送りするのは、泉鏡花の幻想劇『海神(かいじん)別荘』です。

『海神別荘』は「泉鏡花の戯曲の最高傑作」と芥川龍之介が評するほどの名作ですが、しかし泉鏡花が生きていたときには一度も上演されなかったという悲運の戯曲でもあります。

なんといっても舞台は海神の棲む海底の楼閣

そこに居を構える海神の「公子」を舞台の中心に置き、あでやかな「官女たち」の歌舞音曲がそれを取り巻く。人の魂が化した海月の漂う海中を、海神の宮殿に向かうのは、人身御供として公子のもとに嫁ぐ清らかな「美女」

CGも特殊映像技術もない時代に、こんな幻想劇の上演は確かに不可能ですね。 

しかし、現実的な要素がひとつもない『海神別荘』は、「泉鏡花の」という限定詞を冠するまでもなく、世界の幻想劇の最高傑作のひとつといっても過言ではないでしょう。しかし、まさしくその幻想性・非現実性ゆえに、その上演が困難を極め、泉鏡花の在世中には一度も上演されなかったのです。

今回は、現存する世界最古の幻想劇である「能楽(能・狂言)」をその主軸に置き、美女には百鬼ゆめひな(飯田美千香)の「人形(ひとかた)」を据え、とことん現実性を廃した演出で、この作品を上演します。

歌舞を奏でる官女には『イナンナの冥界下り』でイナンナ役を務めた蜜月稀葵(みづき・まれあ)。

「難しいのでは」、「わからないのでは」という心配はご無用。美女の声を勤める浪曲師、玉川奈々福による明瞭な語りは現代人の耳にもよく馴染み、また幻想文学の泰斗である東雅夫が泉鏡花役で登場し、観客の皆さまをナビゲートしながら物語を進めます。

東京公演は、2016年3月5日(土)です。全席指定で12月10日より販売を開始いたします。また、『海神別荘』に向けての寺子屋も予定しています。お楽しみに~!

※なお、本公演は金沢、那須での公演も予定しております。詳細は後日。

**********

「海神別荘」@カメリアホール公演

2016年3月5日(土)1430開場 1500開演 
@亀戸・カメリアホール
(JR総武線で秋葉原から4駅8分「亀戸」駅下車 北口徒歩2分)

入場料:全席指定 予約5000円 当日5500

(学生・てんらい会員は1000円引き。入会のご希望はmember@inana.tokyo.jpへ) 

予約:イナンナプロジェクト事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時) 

【主な出演者】

公子 安田登(能楽師 下掛宝生流ワキ方)

沖の僧都 奥津健太郎(能楽師 和泉流狂言方)

美女 飯田美千香(人形師。百鬼ゆめひな)

侍女 蜜月稀葵(ダンサー)

美女の声 玉川奈々福(浪曲師)

笛 槻宅聡(能楽師 森田流笛方)

チェロ 新井光子(チェリスト)

泉鏡花 東雅夫(アンソロジスト、文芸評論家) 他。

 

ご予約を開始は1210日より

この公演につきましては、一般のお客様は、カメリアホール(03-5626-2121)へお申し込みくださいませ。

インターネット予約もあります。

http://www.kcf.or.jp/kameido/concert_detail_010500300307.html

会員様につきましては、事務局のほうにお申込みくださいませ。会員価格で1000円引きになります。

全席指定となりますので、ご希望を添えて、お申し込みください。

入場料のお振込みをいただいたのを確認後、チケットを事務局より発送させていただきます。