▼名詞グループと動詞グループ
『イナンナの冥界下り』の冒頭は次のように始まります。
「アン・ガル・タ・キ・ガル・シェ・ゲシュトグ・ガニ・ナ・アン・グブ」
(an gal-ta ki gal-še3 ĝeštug2-ga-ni na-an-gub)
シュメール語の文は「名詞」のグループと「動詞」のグループに分けることができます。
この文でいうと「アン・ガル・タ・キ・ガル・シェ・ゲシュトグ・ガニ(an gal-ta ki gal-še3 ĝeštug2-ga-ni)」までが「名詞」のグループ。
で、残りの「ナ・アン・グブ(na-an-gub)」が「動詞」のグループです。
この中で「グブ(gub)」が動詞です。
その前の「ナ・アン(na-an)」に関しては、いまは無視しておきましょう(意味だけを把握するには、無視しても何とかなります)。
▼アンガルタとキガルシェ
動詞の話をする前に「名詞」グループの中を簡単に見てしまいますね。おのおのの詳細はまたいつか。
「アン・ガル・タ・キ・ガル・シェ・ゲシュトグ・ガニ(an gal-ta ki gal-še3 ĝeštug2-ga-ni)」
この中の「アン(an)」と「キ(ki)」は、もうすでにやりました。「天(アン)」と「地(キ)」です。
これがわかると、この名詞グループも3つに分けられることに何となく気づきます。
「アン・ガル・タ((an gal-ta)」
「キ・ガル・シェ(ki gal-še3)」
「ゲシュトグ・ガニ(ĝeštug2-ga-ni)」
最後の「ゲシュトグ・ガニ(ĝeštug2-ga-ni)」は、ちょっと措いておき、最初の2つを見てみると、「アン」と「キ」のあとに「ガル」がありますね。
これは形容詞で「大いなる」という意味です。
・ガル=大いなる
で、あとは「タ(ta)」と「シェ(še3)」。これは日本語の助詞と同じ。
・タ(ta)=~から、~より
・シェ(še3)=~へ
…と、ここまでくると
「アン・ガル・タ((an gal-ta)」=大いなる天より
「キ・ガル・シェ(ki gal-še3)」=大いなる地へ
…となることがわかるでしょう。
▼ゲシュトグ・ガニ
さて、もうひとつの「ゲシュトグ・ガニ(ĝeštug2-ga-ni)」ですが、これは実は…
「ゲシュトグ(ĝeštug2)」と「アニ(a-ni)」なんです。
「なんで「ガニ」が「アニ」になるんだよ!」と叫びたい方、ここでその話をすると長くなるので、少し黙っていなさい。
で、 「ゲシュトグ(ĝeštug2)」は「耳」、「アニ(a-ni)」は「彼の、彼女の」です。ここではイナンナの話なので「彼女の」ですね。
というわけで 「ゲシュトグ・ガニ(ĝeštug2-ga-ni)」で彼女の耳。
あ、やっぱり動詞の話をするには、この「ゲシュトグ(ĝeštug2)」は説明しとかなきゃダメだ。
…わけで急遽、予定を変更して、今回は「ゲシュトグ(ĝeštug2)」の話までにしますね。
▼耳は猫耳
この「ゲシュトグ(ĝeštug2)」ですが、意味は「耳」なんですが、ちょっと楔形文字を見てみましょう。
まずは新アッシリア時代のもの。

これだと何だかわかりませんね。では、もっとも古いウルク古拙文字を。


あれ~。「耳:ゲシュトグ(ĝeštug2)」って人間の耳だと思っていたら、実は猫耳だったのです!
これよりちょっと新しいウル第三王朝の時代の「耳」も。

これはちょっと横に倒しただけですね。
そう。「彼女の耳(ゲシュトグ・ガニ:ĝeštug2-ga-ni)」というときの「耳」は「猫耳」だったのです。
てなわけで、動詞は次回に~。