「山のシューレ」十周年の今年の開き舞台は、キャスティングと演出を一新した「イナンナの冥界下り」。
安田登の悲願であった、森の中の「七石舞台」……七つの石と、森と天をうつす鏡のような、流れる水のようなステンレス板が組み合わさっている舞台の上での上演がかないました。
内容は、昨年末に能楽堂で上演した「古代編」を、かなりシェイプアップし、狂言的であった演出を、また能的に変えたもの。
暮れ行く森の中。風の音、木の葉の刷れあう音。そんな中で、世界最古の神話。
天地を統べる女神イナンナは、すべてを捨てて、七つの神聖なる霊力「メ」を身にまとい、冥界へと向かう。
ところが冥界の女王にしてイナンナの姉であるエレシュキガルは、イナンナの到着を聞いて怒り狂い、
冥界の七つの門を閉じ、その一つ一つをイナンナ自ら開けさせること、そこで一つ一つ「メ」を奪うことを、
冥界の門番ネティに命じる。「メ」をうばわれたイナンナは、弱き肉=死体となる。
イナンナの大臣ニンシュブルは、冥界に赴く前のイナンナに銘じられたとおりに大神たちに詣でる。
以上の写真は、林信行さん撮影です。
那須は前日から豪雨になったかと思うと、晴れ間がのぞくという不安定な天候。
上演中も小雨がぱらつき、流石、雨乞いの能楽師と晴れオンナ浪曲師が共存する舞台!
でも、外の風にさらされる中で声を出すと、芸能の原初に立ち返る気がしました。
来年2月のイギリス、リトアニア公演に持っていく形が、見えて来た気がする公演でした。
さあ、6月23日(金)! いよいよ欧州行き前の東京最終公演です。
今回は、この「古代編」(一時間十五分予定)に加え、「未来編」(一時間予定)も一挙に上演します。
未来編のイナンナは、アムステルダムを中心に世界的に活躍するダンサー、湯浅永麻さん。
現在横浜バレエフェスのために来日中。昨年さいたまトリエンナーレで披露された向井山朋子演出の「HOME」は、見た方々の感想を見ると、相当すごかったみたいです。見に行けず無念だった!!!
未来編の舞台は、地上に住めなくなった人間が避難した地下(冥界)。そこを突如訪問するイナンナ。
彼女は言葉を持たないHuman2.0。
このイメージは、安田先生がいとうせいこうさんの「親愛なる」を読んで発想されたもの。
安田先生曰く、
『「無音」と「静止」がとても多くなる。インドの「空(シューニャ)」が中国で「無」になることによって、無はより積極的な意味を持つようになる。世阿弥は「せぬ隙」という。何もしない時空間を充実させる』
……私も出演予定なんですが、私は声で商売をしているものです。音です。……出番あるのか?
いったい、どうなるんでしょう。
能楽から、浪曲、オペラ、ダンス、ヒップホップ、諸芸能の身体性精神性が混沌と交じり合って、
世界最古の神話を上演する舞台「イナンナの冥界下り」。
正面席は売り切れですが、他の席はまだあるようです。お出ましください。お待ちしております。
【古代編】約1時間15分
■出演者
女神イナンナ 奥津健太郎(能楽師狂言方)
女神イナンナの声 辻康介(バリトン)
冥界の女王エレシュキガル 杉澤陽子(能楽師シテ方)
冥界の女王エレシュキガルの声 安田登(能楽師ワキ方)
大臣ニンシュブル Junko☆(実験道場ダンサー)
冥界の門番ネティ 蛇澤多計彦(実験道場ダンサー)
大臣ニンシュブルおよび冥界の門番ネティの声ほか 玉川奈々福(浪曲師)
クルガラ 奥津健一郎(子方)
ガラトゥル 笹目美煕(子方)
冥界の裁判官 我妻良樹(実験道場ダンサー)
冥界の裁判官 城ノ脇隆太(実験道場ダンサー)
冥界の裁判官 蛇澤圭佑(実験道場ダンサー)
冥界の裁判官 平田雅大(実験道場ダンサー)
ほか、コロス出演
音楽 槻宅聡(能楽師笛方)、大川典良(能楽師太鼓方)ヲノサトル(音楽家・DJ)
監修・翻訳 高井啓介(大学教員・シュメール語講師)
~~~休憩~~~
【未来編】約1時間
女神イナンナ 湯浅永麻(ダンサー)
冥界の女王エレシュキガル 杉澤陽子(能楽師シテ方)
語りほか 安田登(能楽師ワキ方) 奥津健太郎(能楽師狂言方) 玉川奈々福(浪曲師)
音楽 槻宅聡(能楽師笛方) 大川典良(能楽師太鼓方)
■日時 6月23日(金)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 正面席6,500円、脇正面席5,500円、中正面席4,500円
(てんらい会員は1,000円引き 指定ご希望の方は1,000円にて承ります)
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)