前回に引き続き、中川学さんに描いたいただいたイラストの楔形文字の解読です。

解説はシュメール語の高井啓介先生。…ですが、いらぬことも書いているので文責は安田登です。

イナンナ3BW

今回は3行目から読んでいきましょう。

▼3、4行目

03+04

3行目と4行目は2行でひとつの文なので、続けて読むことにします。では、まずこの2行を続けてしまいましょう。

03+04c

この文には同じ文字が使われていますね。ぱっと見て気がつくのが6文字目と7文字目

覚えていますか?これは「天」や「神」を意味する「an(アン)」でした。

で、(前にも書いたけど)実は3文字目も同じなのです。「え~、同じに見えない!」という方。あなたの書く「あ」というひらがなと、お友だちの書く「あ」を比べてみてください。たぶん、シュメール人には同じに見えないくらいに違うはずです。

●まずは1文字目

0301

では、1文字目を見てみましょう。これは「me(メ)」と発音します。意味は「私」です。

ちょっと混乱させてしまうかも知れませんが、実はこの文字は違う意味(しかもかなり大切)でも使われます。女神イナンナが冥界に行くときに身につける神のパワー「メ」です。これもちょっと覚えておいてくださいね。

●2文字目

0302

この字は発音は「e(エ)」。ここでの意味は「~は」です。

ですから1文字目と2文字目で発音は「me-e(メ・エ)」、意味は「私は」となります。

●3文字目は見覚えがある

0303

3文字目のこの字は6文字目、7文字目と同じです(ちょっと形は違いますが)。発音は「an(アン)」で、意味は「神」や「天」を現しました。

でも、ここではちょっとだけ違います。ちょっとだけというのは、「神」というのはいいんです。ただ、ここでは神さまという名詞ではなく、「このあとの単語は神さまのことですよ~」ということを示すもので、こういうのを「限定詞」と呼びます。

日本語ですと、「なんとかの」とか「なんとかの命(みこと)」みたいに後ろにつくものが前についてしまうんです。ちなみに漢字ですと「」とか「」とか「示す偏」が漢字の中に入ってしまって、これが神さま系の文字だよ~と示しますね。

ちなみにその場合の発音は「diĝir(ディンキ°ル)」になります。

てなわけで、以下は神さまの名前ですが、それが4文字目から8文字目までです。

●4文字から8文字まで

0304

この5文字は神さまの名前を現しますので音だけを見ていきましょう。6文字目と7文字目はいいですね。「an(アン)」です。

4文字目=ga(ガ)
5文字目=ša(シャ)
6文字目=an(アン)
7文字目=an(アン)
6文字目=na(ナ)

続けてみましょう。

ga-ša-an-an-na

「ガ・シャ・アン・アン・ナ」なんていうロボットだか、戦隊ものだかみたいな神さまのですが、実はこれ「イナンナ」のことなのです。

「じゃあ、なんでイナンナって言わないんだよ」とお怒りの方。

シュメール語には、通常の言葉のほかに女性や神官が使う「エメサル」という言葉があって、このガシャーン!もエメサル。で、「イナンナ」を意味するのです。

●限定詞は上付き文字で書く

さて、このイナンナの前に神さまを現す限定詞、「diĝir(ディンキ°ル)」がありましたね。限定詞をアルファベットで書くときにはdiĝirの最初の「d」を上付き文字で書きます。こんな風に…。

dga-ša-an-an-na

●では、この行の最後の文字を

0305

この字は発音は「ĝen(ケ°ン)」、意味は「~です」

では、この行を続けて読んでみましょう。

「me-e dga-ša-an-an-na gen

「メ(私)・エ(~は)・ディンキ°ル・ガシャアンアンナ(女神イナンナ)・ケ°ン(です)」

「私は女神イナンナです!」となります。

▼5行目と6行目

5行目と6行目も2行でひとつの文ですのでつないでしまいます。

05+06

●1字目と2字目

0501

この2文字は「ma-ra(マ・ラ)」で「私に」という意味なのですが、実はこの2文字(特に1文字目)は、よくわからないんだそうです。

粘土板はシュメールの遺跡から発掘されるのですが、その作業中につるはしなどでガシッと傷つけてしまうことがあり、そうなると文字の判別ができなくなり、「まあ、文脈からこの字じゃないかな」と想像することもあるとか。で、この2文字はそれです。

みなさんも発掘されるときには細心の注意をしましょうね!

●3文字目~5文字目

0502

では、3文字目から5字目です。

お、この真ん中の文字、どこかで見たことがありませんか。そうです。「me(メ)」です。ここでは「音」として使っています。この3つの楔形文字は、すべて「音」として使われています。では、音を紹介しましょう。

「dim3-me-er(ディン・メ・エル=ディンメル)」

始めて出てくる単語ですが、これもエメサル(女性・祭司言葉)で、ふつうの言葉では「diĝir(ディンキ°ル)」。あれ?これもどこかで聞いたことがありますね。

そうです。「神」です。

前は限定詞として出て来ましたが、ここでは「神」という名詞fで使われています。

●6文字目

06tesh

この字は発音は「teš2(テシュ)」、意味は「どの」とか「ひとつの」という意味です。

●7文字目~10文字目

060710

この文のの最後の文字もどこかで見たことがありますね…って、これはだいぶ前なので忘れているかも知れませんが。

1行目の1字目。一番、最初です。「a(ア)」と読みます。この4文字もアルファベットにしてみましょう。

「mu-da-sa2-a(ム・ダ・サ・ア)」です。

これは動詞グループなのですが、この中で動詞は3文字目の「sa2(サ)」、意味は「比べる」です。

ちなみに「動詞グループ」って何だ!とか詳しく知りたい方は、ぜひ高井啓介先生のワークショップにどうぞ!

今は「sa2(サ)」以外の他のものは「おかず」程度に思っておいてください。あ、ひとつだけ。最初の「mu」は、以下が動詞ですよ~ということを示すときによく書かれる文字です。ですから意味はなし。

で、「mu-da-sa2-a(ム・ダ・サ・ア)」の意味は「比べられようか」となります。

●この文の意味

ですから、ここの文は次のようになります。

「ma-ra(私に) dim3-me-er(神) teš2(どの) mu-da-sa2-a(くらべられようか)
どの神が私に比べられようか(私に比すべき神はいない)

▼全体です!

では、全体を見てみましょう。

1行 :わが父(エンリル神)は、私(イナンナ)に天を与えた
2行 :私に地を与えた

3,4行:私はイナンナ
5,6行:私に比すべき神はいない

こんな意味になります。

上記の文は、本来は34行からなる女神イナンナを讃える歌(Inana F; VAT 7025 iii 8-41)の冒頭の3行です。

全文を読みたい方は、オクスフォード大学のETCSL(The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature)で読むことができます。

シュメール語の原文はこちら

英訳はこちら

舞台『イナンナの冥界下り』においては、イナンナ(奥津健太郎)のよみがえりの舞に合わせて、コロスがこれに節をつけて歌います。お楽しみ~。


イナンナバナー

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おかげさまで完売いたしました。ありがとうございました。

■日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 全席自由5,000円(てんらい会員は1,000円引き)
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)

セルリアンタワーまでの行き方動画by実験道場
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https://www.youtube.com/watch?v=g27yDsISEXY&feature=youtu.be