12月27日(火)に上演する『イナンナの冥界下り』カウントダウンの第2弾です。

前回は、中川学さんの図像の解説をしました。今回は、左側に書かれているものを解読することにしましょう。

楔形文字とシュメール語の解説は高井啓介先生。で、それをもとに以下を書いたのは安田です…ので、文責は安田にありま~す。

イナンナ3
 
▼楔形文字

左側に書かれている、これ。

楔形文字

そう。これは中学校や高校で、おそくら名前だけは聞いたことのある「楔形(くさびがた)文字」です。楔形文字は、シュメール人が発明した世界最古の文字です。

シュメール人といえば、四大文明のひとつ、古代メソポタミア文明を担った人たちです。現在のイラク周辺。チグリス川ユーフラテス川に挟まれた土地に住んでいました。

でも、シュメール人と聞くと「おお!」という人がいるでしょう。『ムー』を始め、ちょっと怪しい系の本や雑誌でよく取り上げられます。ネットで「シュメール」を検索すると、これまた怪しい話がたくさん。それらの真偽はともかく、でも確かにシュメール人がどこから来たのか、そしてどこに消えてしまったのかはよくわかってはいません(約BC3,500年~BC2,000年)。

突然、出現して文字を発明して、そしてそのおかげで高度な都市文明独自の文化を発達させ、そしてまたどこかへ消えてしまった謎の民族です。

12月27日(火)に上演する『イナンナの冥界下り』は、そんなシュメール人の残した神話を、シュメール語と、そして能(日本語)で上演しようという試みです。今回はさらに電子音楽ヒップホップが加わり、わけのわからなさ満載です。

さて、シュメール人は文字を発明しましたが、しかし、とはいえむろん誰でもが文字を読み書きができたわけではなく、基本的には「書記」と呼ばれる人たちだけが文字を操っていたようです(例外もあり)。

筆記具は、ユーフラテス川に生えていた葦をペン状にしたものです。その先端を粘土を板状にしたもの(粘土板=タブレット)に押し付けて楔形文字と呼ばれる文字を刻みました。てんらいの高井啓介先生のワークショップでは、皆さんと一緒に実際に粘土板に楔形文字を刻み込むこともします。

さて、これからこの楔形文字を読んでいきたいと思います。

この時代にはまだアルファベットは存在しません(当たり前ですね)が、どんな読み方をしていたかを知っていただくため、便宜的にアルファベットで「音」を表現しました。

楔形文字のひとつひとつには「意味(訓)」があり、また同時に同じ文字が「音」を表すこともあります。漢字のようですね。また、語順も日本語とよく似ており、漢字文化に親しんだ我々にはとても理解しやすいことばなのです。 

▼解読の準備

では、実際に解読をする前に、まずは 全体をざっと眺めておきましょう。

楔形文字


行は6行ありますね。英語などと同じく、左から右へ読みます。

楔形文字を始めて読むときには、文字と文字の区切りもよくわからないと思いますが、よく見てみると、同じ文字が何度か使われているのに気づきますか。 

たとえば1行目の3文字目(anと読みます)。これです。

0103

これは、 同じ行の5文字目と同じですね。また2行目の3文字目とも同じです。さらに4行目の1文字目と2文字目にも表れます。そして、ちょっと形は変わっていますが、実は3行目の3文字目も同じ文字です。

また、 3行目の1文字目(meと読みます)。これです。

0301

これは5行目の4文字目(後ろから2字目)と同じです。

このほかにもいくつかあります。

一度、この文章を書写してみると(意味はあまり気にせずね)、いろいろと見えてきます。

▼1行目
 
では、1行目から読んでいくことにしましょう。

01

●最初の文字はこれです。

0101

この字は「a(ア)」と発音します。もともとは「水」を現す楔形文字ですが、ここでは「父」という意味で使われています。

ちょっと余談ですが、漢字の「父」は「斧(おの)」という漢字の上に使われるように、もともとは「斧(おの)」を手に持っている形です。また、「自」という漢字は「鼻」の象形で、もともとは「鼻」を意味しました。このようにもともとの意味が、違う意味で使われることは漢字でもシュメール語でもよくあります。

で、ここでは「父」という意味です。

●次の文字はこれです。

0102

この字は「ĝu(グ)」と発音されます。

正確には「ク°」、鼻濁音です。以下、鼻濁音には「°」を付けますが、鼻濁音が発音できない方、あるいは「鼻濁音って何だかわからな~い」という方は頭の中で「グ」と変換してお読みください。

意味は「私の」になります。

ちなみにシュメール語を学んでいる人は「ĝu10」なんて数字をつけて書きます。

この数字は何かというと、漢字でも同じ発音をする漢字ってあるでしょ。たとえば「カイ」という発音の漢字は「会」「回」「界」「貝」などいっぱいあります。それを「会(カイ1)」「回(カイ2)」「界(カイ3)」「貝(カイ4)」なんてやるようなものです。発見された順番につけているようです。

…というわけで、以下、数字をつけますね。でも、発音は同じなので気にしないでください。

●では、いまの2つを続けて読むと…

01010102

発音は「a-ĝu10(ア・ク°)」で、「私の父」という意味になります。

●それでは3文字目

0103

これは何度も出てきた文字でした。こういうのは覚えてしまうと後が楽です。紙を出して何度か書いてみましょう。

発音は「an(アン)」です。

この文字にはいろいろな意味がありますが、主に「天」「神さま」、そして「an(アン)」という「音」だけでも使われます。

ここでは「天」という意味で使われています。

●あとは続けて…

次の4文字は続けてみてみましょう。

0104

これは「ma(マ)」「an(アン)」「ze2(ゼ)」「eĝ3(エク°)」と発音します。

2文字目に「an(アン)」が見えるでしょう。気がつきましたか。

「ma-an-ze2-eĝ3(マ・アン・ゼ・エク°)」の意味は「与えた」です。

ここでは文法的な説明はしませんが、「ma-an-ze2-eĝ3」という言葉の中で「与えた」という意味は最後のふたつ「ze2-eĝ3(ゼ・エク°)」です。あとのふたつで「彼は・・私に」という意味があることが暗示されるのですが、まあ、そこら辺は気にせずに…。

気になる方は、ぜひ高井啓介先生のワークショップで粘土板に楔形文字を刻みながらどうぞ~。

●では、一行目の意味を続けてみてみましょう。アルファベットで書きますね。

a(父)-ĝu10(私の) an(天を) ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)

はい。意味をつなげます。

「私の・父は・(私に)・天を・与えた」となります。

私の父は私に天を与えた。

おお!簡単。

文法の勉強を全くしていないのに読めてしまう!

これがシュメール語の特長です。

▼2行目

では、この調子で2行目も見てみましょう。

02

これは読み出す前に、1行目と比べてみます(わかりやすいように2行目をちょっとずらしました)。

01+02

あれ?似てますね。後半の4文字が同じです。

いま、やった「ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)」です。

そして、1行目の最初の2文字「a(父)-ĝu10(私の) 」は2行目にはありません。

で、3文字目の「an(天を)」が違う文字になっています。

0201

…となると、この文字さえわかればOKですね。

なんとなく想像がつきますか。「天」に対するもの。そうです、これは「地」です。発音は「ki(キ)」

では、この文もアルファベットで書いてみましょう。

ki(地を) ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)

「地を私に与えた」という意味になります。

▼1行目と2行目

「私の父」というのはエンリル神という神さまです。「私」というのは女神イナンナです。

最初の2行は「父、エンリル神は、私(イナンナ)に天を与え、地を与えた」という意味になります。

では、今日はここまで。続きをお楽しみに~!

イナンナバナー

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残席、あと10席ほどになりました。お申し込みはお早めに!
おかげさまで完売いたしました。ありがとうございました。

■日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 全席自由5,000円(てんらい会員は1,000円引き)
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)

セルリアンタワーまでの行き方動画by実験道場
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https://www.youtube.com/watch?v=g27yDsISEXY&feature=youtu.be