「海神別荘寺子屋 第一回目01」

これから数回に分けて、2月1日(2016)に東江寺(広尾)さんで19時より行われた『海神別荘』寺子屋  第一回目の模様をお送りします。ちなみに次回は29日です。受講料はお賽銭。飛込みも歓迎ですが、テキストの用意もございますので、事前にメールをいただけると助かります。

info@watowa.net

▼お化けの専門家といえば東さん
 
海神別荘寺子屋01

安田 こんばんは。こちらは今日のゲスト、東雅夫さんです。

 よろしくお願いします。

安田 先般、東大の経済学部の学生が主体になって「大人の教養学部」という講座を開講しました。その監修を依頼されて、まずは第一期を「宗教と価値観」というテーマにしました。僕たちは外国に行くと「自分は何者なんだろう」という問いが突きつけられることがあります。その答えは個々人が考えるべきことなのですが、その自分を作っているさまざまなことを「宗教」という観点からみていこう、という講座です。

「宗教と価値観」というテーマにしたときに、最初に思い浮かんだのはもちろん「神道」「仏教」です。ところが、僕たちはお寺というと、たとえば「四諦八正道」などという仏教の教理というよりは、まずはお墓がイメージされて、さらには幽霊だとか人魂だとか、そんなものがイメージされます。実は日本人の宗教観の中心というのは、仏教的な深遠な教理や、神道の国学的な話ではなくて、お化けだったり妖怪だったり、そういう怪異現象なんじゃないかと思ったのです。

 ですから宗教観を考えるのに、神道、仏教だけでなく、やはり妖怪、怪異を入れるべきではないかということで、神道は神田明神の禰宜の清水祥彦さん、仏教は釈徹宗先生にお願いしたのですが、妖怪・怪異といえば、もうこれは日本広しといえども東さんしかいないんじゃないかと。いま日本でお化けを語らせたら、東さん。あ、水木しげる先生もいらっしゃいますが亡くなられてしまって…。

 いきなり、とんでもない方と較べないでくださいよ!(汗)

安田 東さんと水木先生の大きな違いは、水木先生は半分あっちの世界にいらっしゃった、東さんはわりとこっちの世界にいながら、あっちを語るという希有な方ですね。

 昨日たまたま水木先生のお別れ会が青山斎場でありました。なんと8千人くらいの参列者があったようです。葬儀委員長は荒俣宏さんで、京極夏彦さんが司会を務めて。ニュースでも流れていたので、ご覧になった方も多いかと思うんですけど、京極さんがデザインされた祭壇がユニークでね。中央に丸い輪があって、その中に水木さんの遺影が飾られている。この丸い輪は、この世とあちらの世界の境目で、水木さんはたまたま輪の向こう側にいらしてしまったけれども、ちっとも亡くなったという感覚は僕にはありません、と京極さんが開口一番おっしゃって。きっと、今この瞬間も向こう側から、こちらのことを見守っているに違いない、と。弔辞を読まれた皆さんも口々に、水木さんは、あの世へ引っ越しただけ、ちょっと旅行に出ただけ……とおっしゃっていました。まさに、そういうスタンスの方でしたよね。

安田 ちなみに「大人の教養学部」の一番最初は、いとうせいこうさんにお願いしまして、東さんの回は3月の2日です。ぜひどうぞ!

今日はもう一人のゲストにお越しいただきまして、こちら、お馴染みの奥津健太郎さんです。

奥津 こんばんは。

安田 奥津さんは能楽師の狂言方ですが、すごく昔からの知り合いという甘えで、僕が作る作品では、一番大変な部分を奥津さんにお願いしてしまいます。台詞も多いですね、いつもね。

奥津 はい。まあ、わりと。でもいろいろ御配慮もあるので、なんとかやっているという感じなんですけども(笑)。

安田 台詞も多いし、直前に変わるしね。直前って、どのくらいで変わるかというと、本番の30分前に変えることがありますよね。

奥津 あの、前、始まってから変わったことが(笑)。

安田 そういうこともありました。

▼鏡花のまずは一冊

安田 で、今日は前半は、鏡花の話を。

 今日は、3月5日に亀戸のカメリアホールで公演をする『海神別荘』にちなんだ寺子屋ということで。とはいえ、いきなり『海神別荘』の話をするのも唐突かなと思いますし、29日の寺子屋でもお話をさせていただく予定なので、今回は『海神別荘』の作者である泉鏡花という作家のことを──どんな人で、どんなものを書いていたのか、ということを、前半でお話ししたいなと思っています。

 最初に皆さんにお伺いしますが、泉鏡花の作品──まあ、いろいろありまして、初期の例えば「夜行巡査」とか「外科室」という深刻小説と呼ばれた出世作から、「高野聖」であるとか、あるいは「草迷宮」「春昼」といった怪奇幻想を極める名作群。晩年にも「歌行燈」のように能とも大変に関わりの深い作品があったり、いろんな作品があるんですが、つらつら思い返してみていただいて、鏡花作品を何作くらいお読みになったことがあるかを訊いてみたいと思います。
 
 例えば10作以上、読んでるよという方、手を挙げていただけますか?

 おお、はい、わかりました。ということは、皆さん10作以下ということでよろしいですね(笑)。

 5作から10作くらいは読んだよという方、ああ、はい。……ということは、皆さん1作から4作ぐらいだったら読んだことあるよという方、手を挙げてみてください。

 はい、ちょっとホッとしました。一度も読んだことのない方も、いらっしゃいますね。いや、それが今では普通で
す……。

安田 読み通せなかったという人も……。

 そう、そのパターンが多いでしょうね。

鏡花の文章というのは、『海神別荘』もト書きの部分がそうですけれども、江戸文学の素養がとても豊富にあった人なので、当時としても相当に古風な、しかも絢爛華麗なレトリックなんですね。華麗すぎて何を言ってるのか時々よくわからなくなるというくらい(笑)。

それは専門家の先生方でもそうで、ここはどういう意味なんだろうね、と研究会でも問題になったりするくらい。ですから、この種の文章を読み慣れていない方が、いざ鏡花作品に手を付けたはいいけれども、なかなか読み通せないのも無理からぬことだと思います。

 とはいえ、決してそういう作品ばかりではありませんし、会話の多い作品、特に戯曲はね、『天守物語』もそうですし、『海神別荘』『夜叉ケ池』もそうなんですけど、実に流麗で格調高い名調子、美しい日本語がずっと連なっていくという傑作が、いくつもあります。坂東玉三郎さん主演の舞台でも、おなじみですね。

安田 映画にもなっていますしね。ところで突然お聞きしていいですか? 読み通せなかった方のために、これだったら大丈夫そうだという作品を挙げていただけますか。

 うーん。宣伝みたいで気がひけるんですけれども、私が平凡社ライブラリーから編纂刊行したおばけずき 鏡花怪異小品集というアンソロジーがありまして、これの編纂動機のひとつは、今まさに安田さんがおっしゃったように、鏡花を読み通せないという方に向けて、比較的とっつきやすい作品を集めて提供しようということでした。

それで小品とか随筆、談話など、短いもので、しかも怪しいお話を集成してみたわけですね。いずれも鏡花にしてはわかりやすく、普通の言葉というのも変ですけども、わりと肩の力を抜いた感じで書いたり語ったりしている作品が多いので、鏡花世界入門には手頃ではないかと思います。

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おばけずき 鏡花怪異小品集』(平凡社ライブラリー:泉 鏡花、 東 雅夫)
 
安田 これ一冊読めると、さっきの10から15の中に突然入れるということに……。

 そうです!(笑)

<続く>

『海神別荘』への道 0102→03(未)
語りを考える(玉川奈々福)


▼『海神別荘』公演 ご予約の方法

日時:3月5日(土)14:30開場 15:00開演 
場所:亀戸・カメリアホール
(JR総武線で秋葉原から4駅8分「亀戸」駅下車 北口徒歩2分)

全席指定 予約5000円 当日5500円
※「てんらい会員」の方は1,000円引きになります。
「てんらい」の会については以下をご覧ください。

http://inanna.blog.jp/archives/1033520801.html 

ご予約の方法は3通りございます。

・カメリア・ホールに直接お申し込みいただく(てんらい割引はございませんのでご注意を!)
03-5626-2121 インターネット予約もございます。
http://www.kcf.or.jp/kameido/concert_detail_010500300307.html 

・てんらい事務局にご連絡いただく
てんらい会員の方は割引料金でご予約いただけますので、てんらい事務局、あるいは出演者の方にお申し込みくださいませ。
てんらい会員入場料:全席指定 予約4000円 当日4500円
event@inana.tokyo.jp
080-5520-1133(9時~20時)

・出演者にお申し込みいただく
チケットを扱っている出演者は、 東雅夫奥津健太郎玉川奈々福です。この3人に直接、お申し込みいただくこともできます(他に出演者にもお申し付けいただくことはできます)。

出演:安田登(能楽師ワキ方下掛宝生流)、槻宅聡(能楽師笛方森田流)、奥津健太郎(能楽師狂言方和泉流)、百鬼ゆめひな(人形師)、玉川奈々福(浪曲師)、蜜月稀葵(ダンサー)、新井光子(チェリスト)、東雅夫(作家) ほか

お待ち申し上げております。