イナンナの冥界下り

シュメール神話『イナンナの冥界下り』を上演するための雑感を書くブログです。

伝統芸能の力を思い知る集い

伝統芸能の力を思い知る集い

~能、狂言、浪曲~

 

伝統芸能


伝統芸能は、なぜこんなにも長い間、続いているのか。
 

「そりゃあ、国から助成金とかいっぱいもらっているからでしょ」


 そう思うのは大間違い。たとえば私たちが毎年開催している「天籟能の会」は、今まで一度も助成金をいただけていません。浪曲の会も同じ。日本は伝統芸能に対して、冷たいというか、薄情というか、なんともスパルタな国なのです(一部のものは除く)。


ならば、なぜ?


 それはもちろん(!)伝統芸能には、すごい力や魅力があるからです。国からも地方自治体からも時代の流れからも冷たいあしらいを受けながら、持ち前のパワーで数百年の命脈を保っています。
 

むろん、伝統芸能によってその魅力や力は違います。同じ伝統芸能とはいえないほど全然違います。でも、その底流には現代の「消費文化」とか違う何かが流れているのです。今回は『イナンナの冥界下り』を支える3つの伝統芸能、「能」、「狂言」、「浪曲」の魅力を一気に体験していただきつつ、その力を思い知っていただき、さらには伝統芸能の底流に流れている何かを考えていきたいと思います。
 

参加者による座談会や、みなさまによるプチ体験もございます。

 

☆☆☆ 記 ☆☆☆


2月21日(火)
19時~ 東江寺(広尾)


入場料:3,000円(てんらい会員は1,000円引き)
※限定 70名 

 

~出 演 予 定
 

能 :安田登、 槻宅聡(能管)
 

狂言:奥津健太郎、 奥津健一郎
 

浪曲:玉川奈々福、曲師(未定)

 

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ご予約は…

・event@inana.tokyo.jp
・080-5520-11339時~20時)

…までお願いいたします。 

2017年1月の寺子屋

今年から寺子屋の情報も、こちらのブログに書いていくことにします。

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▼1月の寺子屋:1月17日(火)、31日(火曜)
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今月の寺子屋は両方とも火曜日になってしまいました。すみません。

東江寺(広尾) 東京都渋谷区広尾5-1-21
 ※広尾駅2番出口 下車5分くらい
 地図はこちら 
受講料:お賽銭(お賽銭箱にご自由にお入れいただきます)
時 間:19時から(だいたい2時間)

▼新春スペシャル寺子屋

今年最初の寺子屋(17日:火曜日)は、バイオリンの本郷幸子さん箏の北川綾乃さんをお招きしての新年スペシャルバージョンです。

おふたりによる演奏と、そして音楽のお話があります。

お話には安田も参加します。また、おめでたい祝言の謡(うたい)も謡いましょう。

***演目(予定)***

モーツァルト / 春への憧れ
宮城道雄 / 手事
宮城道雄 / 春の海
日本古謡 / さくらさくら

飛び込みも歓迎ですが、参加お決まりの方は info@watowa.net へメールをお願いします。

お待ちしてます!

明解する「冥界」その3 急の段

イナンナの「明解」下り(3) 急の段

『イナンナの冥界下り』を明解に解説する「イナンナの「明解」下り」の3回目。今回は「急の段」、女神イナンナが甦りますよ~。

シュメール語の高井啓介先生にチェックをしていただきましたが、文責は安田登です。写真は田島空さんに撮っていただいたものと、ビデオカメラからのキャプチャーを使いました。

イナンナ3

●全体の構造
またまた全体の構造を復習しておきましょう。今回は、この中の「急の段」です。

プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)
序の段 女神イナンナ 冥界に赴く
序の1段さまざまなものを捨て、7つの「メ」を身につける
序の2段大臣ニンシュブルに後事を託す
序の3段冥界への道行き
破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る
破の1段イナンナ、冥界に到着し、エレシュキガルの怒りを招く
破の2段7つの「メ」が剥がされる
破の3段弱い肉となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられる
急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り
急の1段ニンシュブル、神々のところに行く
急の2段クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く
急の3段イナンナとエレシュキガルが甦る
エピローグ 神送り

▼急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り 

●ニンシュブル、神々のところに行く

イナンナの大臣ニンシュブルは、イナンナが残した言葉のそのままに、体を引き裂き貧しき者のごとき姿で、哀歌を歌いつつ、神々の神殿を徘徊し、まずエクルのエンリル神殿に参り、そこで大神エンリルの前で涙を流し、大きな声で泣いた。しかしその願いが聞き入れられなかったニンシュブルは次に大神ナンナの所に参ったが、やはりダメだった。最後に参ったのは大神エンキのところ。

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<激しく泣くニンシュブル>
 
SnapShot(52)
<さらに激しく泣く>

●クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く

大神エンキは、爪の泥からクルガラガラトゥルの二体を作り、命の草命の水を授けて冥界に遣わした。クルガラとガラトゥルを演じるのは子方(子ども)。クルガラは奥津健一郎、ガラトゥルは笹目美煕です。

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<エンキの爪の垢から作られたクルガラ、ガラトゥルは冥界に向かった>

gala-tur kur-ĝar-ra ĝišig nim-gin7 mu-un-dal-dal
(ガラトゥルとクルガラは蝿のように扉を飛び)
gala-tur kur-ĝar-ra za-ra lil2-gin7 mu-un-gur-gur
(ガラトゥルとクルガラは「風」のように柱を回った)

イナンナを助ける精霊たちが「蝿(nim)のように扉を飛び」と聞くと「え~、ハエ。やだ~」と思う方もいらっしゃると思うのですが、ハエは決して悪いものではありませんでした。アッカド語の『ギルガメッシュ叙事詩』には神にかたどった「大きな(偉大な)ハエ」のラピスラズリの首飾りを掲げる…などという表現もあります(第11書板163行目:George版)。

また、「風(lil2)」の方は「霊」と訳してもいいし、「息」と訳してもいい。ヘブライ語の「ルアフ(רוּחַ )」やギリシャ語の「プネウマ(πνεῦμα)」と同じですね。

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<”風(霊、息)”のように柱を回る>

SnapShot(60)
<ふたりは冥界に着いた>

●クルガラ、ガラトゥルとエレシュキガルとの会話

冥界に着いたクルガラとガラトゥルはエレシュキガルと不思議な会話をします。

クルガラ、ガラトゥル(以下、クル、ガラ):いかに申し上げ候。
エレシュ:u-u8-a šag4-ĝu10(ああ、私の内が)
ク  ル:おお、哀れなるかな御身の内が。
エレシュ:u-u8-a bar-ĝu10(ああ、私の外が)
ガ  ラ:おお、哀れなるかな御身の外が。
エレシュ:
a-ba-am3 za-e-me-en-ze2-en(お前は誰だ)
ク  ル:我が内より御身の内へ。我が外より、御身の外へ。
エレシュ:
a id2-bi ma-ra-ba-e-ne(川いっぱいの水を与えよう)
ガ  ラ川を満たす水なりとも。我が賜はるべきものにてはなく候。
エレシュ:
a-šag4 še-ba ma-ra-ba-e-ne(畑いっぱいの大麦を与えよう)
ガ  ラ 畑を満たす大麦なりとも。我が賜はるべきものにてはなく候。
クル・ガラ:ただあの釘より吊るされたる死体を賜り候へ。
エレシュ:
uzu niĝ2 sag3-ga ĝišgag-ta la2(釘に吊るされた死体?)
ク  ル:なかなかのこと。
エレシュ:
uzu niĝ2 sag3-ga ga-ša-an-zu-ne-ne(釘から吊る下げられた死体はお前たちの女王だ)
クル・ガラ:我が王であれ、我が女王であれ、ただただ賜り候へ。


●イナンナとエレシュキガルが甦る 

イナンナの死体をゲットしたクルガラ、ガラトゥルは、そこに命の水と命の草を注ぎます。するとイナンナは甦り、なんとエレシュキガルも元気になるのです。

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<甦ったイナンナとエレシュキガル>

●イナンナの舞

甦ったイナンナは喜びの舞を舞います。舞の詞章は、中川学さんのイラスト(ページの最初)の左側に書いてある楔形文字『イナンナ賛歌』)を元にしています(詳しい説明はこちら)。原文はエメサルという女性や神官が使う言葉ですが、それを普通の言葉(エメギル)に直しています。

den-lil2-e an ma-an-ze2-eĝ3(エンリルは私に天を与えた)
den-lil2-e ki ma-an-ze2-eĝ3(エンリルは私に地を与えた)
me-e dinana an-en(私はイナンナ)
ma-ra diĝir teš2 mu-da-sa2-a(私に比すべき神はいない)

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<榊を手にして舞うイナンナ(右)>

69
<「私はイナンナ。私に比すべき神はいない」>

●エレシュキガルの舞

続いて冥界の女王エレシュキガルも舞を舞います。エレシュキガルの舞は「序之舞(じょのまい)」という能の舞です。

「序之舞」では、最初に「序」という特殊な足遣いがあります。これは陰陽師や山伏などが行う「反閇(へんばい)」「禹歩(うほ)」などの呪術的な足遣いを模したものとも言われています。

通常は能管(笛)と小鼓、大鼓、あるいは太鼓も加わっての舞になりますが、今回は能管とヲノサトルさんのアナログシンセによる冥界の風のようなノイズ。しかし「序」の間は能管だけで、静寂の中、緊迫感を持って舞われました。 

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<序の足遣いをする冥界の女王エレシュキガル>

088inana 087inana
<ヲノサトル(左)、槻宅聡(右)>
086inana 085inana

090inana

悠々たり悠々たり。太だ悠々たり。
生まれ生まれ。生まれ生まれて 生の始めに暗く
 
    【序之舞】青柳

杳々たり杳々たり。甚だ杳々たり
死に死に。死に死んで 死の終りに冥し
 
女神はパラの衣を着し
女神はパラの衣を着して
シャガンの器を油で満たし
溢るる思ひは身をくだく
千々に乱るる胸の火の
日も夕暮れになりぬれば
パラの衣の長き袂を
翻し翻し袖を返せば
返す命は常盤木の
永遠(とわ)の恵みをイナンナに与え
エレシュキガルはむばたまの
冥き道行く冥界の
冥き道行く冥界の塵の
霞にまぎれて失せにけり

▼エピローグ 神送り 

『イナンナの冥界下り』の舞台は、「よりまし」にイナンナの霊を憑依させるところから始まりました。このような芸能の場合、最後に憑依した神さまを送る「神送り」の儀式が必要になります(大相撲でも最終日に「神送り」が執り行われます)。

この舞台で神を送るのは神官コロスの役割。叙事詩の最初の詞章を謡いながらイナンナを送り、憑依を解きます。

077inana
<神官とコロスによる「神送り」>

明解する「冥界」その2 破の段

イナンナの「明解」下り(2) 破の段

『イナンナの冥界下り』を明解に解説する「イナンナの「明解」下り」の2回目。今回は、冥界でイナンナが殺されてしまう「破の段」についてお話をします。

シュメール語の高井啓介先生にチェックをしていただきましたが、文責は安田登です。写真は田島空さんに撮っていただいたものと、ビデオカメラからのキャプチャーを使いました。

イナンナ3

●全体の構造


最初に全体の構造を復習しておきましょう。今回は、この中の「破の段」です。イナンナが死んじゃうところですね。

プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)
序の段 女神イナンナ 冥界に赴く
序の1段さまざまなものを捨て、7つの「メ」を身につける
序の2段大臣ニンシュブルに後事を託す
序の3段冥界への道行き
破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る
破の1段イナンナ、冥界に到着し、エレシュキガルの怒りを招く
破の2段7つの「メ」が剥がされる
破の3段弱い肉となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられる
急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り
急の1段ニンシュブル、神々のところに行く
急の2段クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く
急の3段イナンナとエレシュキガルが甦る
エピローグ 神送り

▼破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る

●冥界の祭り

今回の上演では原典にないところを一箇所入れました。「冥界の祭り」です。

イナンナが冥界へ旅立つと、舞台の上は真っ暗になってしまいます。イナンナが冥界に行くと、地上は闇になりあらゆる生殖活動が止まってしまい、地上が死の世界になってしまうのです(日本の天岩戸神話に似ていますね)。

でも、その代わりに元気になるのが冥界。冥界では「冥界祭(クル・ヌ・ギ祭)」が執り行われています。

ワンポイントシュメール語講座! by 高井啓介先生
シュメール語で「冥界」を意味する表現の一つにクルヌギというものがあります「kur(kur地)nu(nuない)+ gi4(gi4帰)」で、「帰らざる土地」(land of no return)。基本的に冥界に入ったら帰ることはできません。当たり前ですが。

クルヌギはただ単にクルと呼ばれることもあります。

『冥界下り』の物語のなかでは、破の1段(83行目)で、冥界の門番ネティが…

a-na-am3 ba-du-un kur nu-gi4-še3(なぜあなたはクルヌギなんかにまで旅をしてきたの?)」

…とイナンナに問いただす場面があります。序の1段では、冥界は「ki-gal(キガル(大いなる地))」とも呼ばれていましたね。いろいろな呼び方があったようです。

冥界は人間が死んだら誰でも行かなければいけない場所。それはしょうがないとあきらめていました。でも、あまりそのなかでの出来事についてつきつめて考えようとはしなかったようで、「クル・ヌ・ギ祭」はあったかもしれませんが、残念ながらシュメール語のテキストにその様子は書かれていません。

暗闇の中をごにょごにょ動くのはコロスたち。この場面で彼らは冥界の裁判官アヌンナ諸神になっています。

SnapShot(12)
<暗闇の中をごにょごにょ動くコロスたち>

少し明るくなると舞台の真ん中には円筒状のものが出現します。実はこれは巨大な「円筒印章」をイメージしています。

SnapShot(15)
<円筒状のものはイナンナとエレシュキガルを描く円筒印章>

「円筒印章」とは円筒状になった印鑑です。これを粘土板の上にごろごろしてハンコにします。舞台上にある円筒印章は、イナンナとエレシュキガルを描いた円筒印章です。

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<女王の竪琴の持ち主と言われるプ・アビ女王の円筒印章:本当は小さいです>

舞台上の円筒印章を広げてみると、お馴染(このページの最初)の中川学さんが描かれた絵になります。お客様にお披露目。

SnapShot(16)
<円筒印章を広げると、この図になる>

「冥界祭」では、相撲をはじめ、さまざまな格闘技が行われています。

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<右後ろでは空手で板を割っている。それに驚く冥界の裁判官たち>

SnapShot(17)
<神事で格闘技といえば、やはり相撲>

SnapShot(20)
<「えいっ」と投げられたと思ったら…>

SnapShot(18)
<両手で体を支えて耐える…って手がついたらむろん負けですが(笑)>

相撲をとっているのは冥界の裁判官たち。演ずるのは実験道場のメンバー。我妻良樹、城ノ脇隆太、蛇澤圭佑、(平田雅大:コロスとして参加)。行司冥界の門番ネティ役をする、やはり実験道場の蛇澤多計彦。

※シュメールの祭礼に相撲などが行われていたという記述はありません。相撲は日本の国技と思われていますが、中国や韓国でも行われていました。今回は犬吠えもしました。典拠は『日本書紀』)です。冥界の人たちは隼人の役です。
秋七月壬辰朔甲午、隼人、多來貢方物。是日、大隅隼人與阿多隼人相撲於朝庭、大隅隼人勝之(天武天皇11年
)。
是以、火酢芹命苗裔、諸隼人等、至今不離天皇宮墻之傍、代吠狗而奉事者矣。(神代下段第10段一書)。

…なんて遊んでいると突然、能管の高裂音(ヒシギ)が響き渡り、冥界の女王エレシュキガルの登場が知らされます。

●エレシュキガルの登場

薄暗がりの中を、冥界の女王エレシュキガルが悠々と登場します。エレシュキガルの役はシテ方観世流杉澤陽子(はるこ)。声はワキ方の安田登です。

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<暗闇の中、冥界の女王エレシュキガルが登場する>

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<「エレシュキガル様のおなりでございます」。後方のコロスたちは礼をする>
 
・イナンナの到着

「帰らざる道」を歩み続けたイナンナは冥界に着き、冥界の門番ネティ(蛇澤多計彦:実験道場)に、「自分が到着したことをエレシュキガルに伝えよ」と命じる。

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<イナンナ、ネティに自分の来訪をエレシュキガルに伝えよと命じる>

ネティの声は浪曲師の玉川太福。下・左の写真後方で立っています。でも、これだと誰だか全然わからないので終演後の写真も。
太福 113inana
<右の写真、左:玉川太福、右:蛇澤多計彦>

・エレシュキガル怒る

イナンナの来訪を聞いたエレシュキガル怒りをなし、「冥界の7つの門を閉じ、そのひとつひとつをイナンナに開けさせ、そして門ごとに「メ」を剥ぎ取れ!」 と門番ネティに命じる。

033inana

ĝa2-nu dne-ti i3-du8 gal kur-ra-ĝu10来なさい、ネティ。我が冥界の門を守る者よ)
 ネティ:御前にござりまする。
abula kur-ra 7(imin)-bi ĝišsi-ĝar-bi ḫe2-eb-us2(冥界の7つの門をかんぬきで閉じよ)
 ネティ:は。冥界の七つの門を閉じ。
e2-gal ganzer dili-bi ĝišig-bi šu ḫa-ba-an-us2(大いなるガンゼルひとつひとつ門を手で押させよ)
 ネティ:ひとつひとつをイナンナ様に空けさせましょう。
e-ne ku4-ku4-da-ni-ta gam-gam-ma-ni (彼女が入ったあとでひざまずき)
tug2 zil-zil-la-ni-ta lu2 ba-an-de6(服をはがされたあとで人に持っていかせよ)
 ネティ:門のひとつひとつで「メ」を剥ぎ取ること。確かに承りました。


・7つの門で7つの「メ」を剥ぎ取る

門番ネティは、エレシュキガルの命令通りに7つ門を閉じてイナンナの訪れを待つ。

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<人間で作られる冥界の門>

 030inana
<門を通ると「メ」が剥がされる:これは烏帽子:šu-gur-ra men edin-na野で頭を守る被り物

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<イナンナだって黙ってはいない。ネティを打ち据える女神イナンナ>

SnapShot(41)
<しかしパラの衣を剥ぎ取られると…>

023inana
<さすがのイナンナも弱ってしまう。ちなみに裸です>

・死のまなざし

冥界の女王エレシュキガル玉座を蹴って立ち上がり、冥界の裁判官アヌンナ諸神たちは「死のまなざし」をイナンナに向け、女神イナンナは「弱い肉」にされてしまう。

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<玉座を蹴って立ち上がったエレシュキガル>

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<アヌンナたちは「死のまざなし」をイナンナに向ける>

・冥界の釘

「弱い肉」となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられた。

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<冥界の釘に吊り下げられる女神イナンナ。ちなみにイナンナ、裸です>
 
・エレシュキガルも弱まる

イナンナだけでなく冥界の女王であるエレシュキガルも弱ってしまう(なぜ?)。

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<弱って柱にすがりつくエレシュキガル>

明解する「冥界」その1 序の段

イナンナの「明解」下り(1)

2016年12月27日(火)にセルリアンタワー能楽堂(渋谷)で上演した『イナンナの冥界下り』にお出ましいただいた皆さま、本当にありがとうございました。また、いらっしゃれなかった皆さま、次回はぜひお出ましください。

この舞台は、もともとが古バビロニア時代、すなわち紀元前2千年紀前半(2000−1500年頃)に書かれたと思われる古代の叙事詩(神話)を元にしていますので、ちょっとわかりにくいところもございます。舞台の流れに沿って『イナンナの冥界下り』の意味などをお話してみたいと思います。

シュメール語の高井啓介先生にチェックをしていただきましたが、文責は安田登です。写真は2016年12月の公演を田島空さんに撮っていただいたものと、ビデオカメラからのキャプチャーを使いました。

題して『イナンナの「明解」下り』
※このタイトルは物理学者の江本伸悟さんが「冥界下り」と打とうとしたら「明快下り」と誤変換されたというツイートを見て、それ頂戴しました!

イナンナ3
※このイラストは中川学さん画。絵の解説はこちらにあります。(1)(2)(3)

『イナンナの冥界下り』は全412行で長大な叙事詩(神話)です。私たちの上演では、その前半部分である284行を、能楽の「序・破・急」の構造に当てはめてお送りしております。

全文をお読みになりたい方はこちらでどうぞ。
シュメール語→ETCSLのTransliteration
英訳→ETCSLのTranslation

●全体の構造

…というわけで上演用の全体の構造をまずは紹介しておきましょう。

プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)
序の段 女神イナンナ 冥界に赴く
序の1段 さまざまなものを捨て、7つの「メ」を身につける
序の2段 大臣ニンシュブルに後事を託す
序の3段 冥界への道行き
破の段 女神イナンナ、冥界の女王エレシュキガルに死を賜る
破の1段 イナンナ、冥界に到着し、エレシュキガルの怒りを招く
破の2段 7つの「メ」が剥がされる
破の3段 弱い肉となったイナンナは冥界の釘に吊り下げられる
急の段 イナンナとエレシュキガルの甦り
急の1段 ニンシュブル、神々のところに行く
急の2段 クルガラ、ガラトゥル、冥界に行く
急の3段 イナンナとエレシュキガルが甦る
エピローグ 神送り
※ちなみに省略した後半部分は、冥界から地上に戻ったイナンナが身代わりを探すお話になります。それはそれでとても面白いのですが、それまですると上演時間が4時間ほどになってしまうので泣く泣くカットです。

今回は全体の中から「プロローグ」「序の段」についてお話をします。

●始まる前の舞台
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始まる前の舞台には中央に牛頭の竪琴、その後ろには能の作り物で「宮(みや)」と呼ばれるものが置かれます。右奥には何やら怪しいキーボード群も見えて、普段の能の舞台とはだいぶ違う趣きです。

●シュメールの竪琴

舞台の真ん中にど~んと鎮座ましますのは、牛頭のシュメールの竪琴です。

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竪琴の解説 by 高井啓介先生

この牛頭の竪琴は『女王の竪琴』ともいわれ、現在大英博物館に展示されています。

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<大英博物館蔵の竪琴>

ウルのスタンダードの饗宴の場面の最上段の右端にもこの竪琴を持った楽人が描かれています。

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<ウルのスタンダード。右上に注目>

この楽器はウルのプ・アビ女王の所有物だと思われ、彼女の墓の副葬品として発見されました。1927年にレオナルド・ウーリー卿が発掘し、1928年に大英博物館が取得しています。竪琴が作られたのは紀元前2600年頃のようです。竪琴にあしらわれている牛の頭部の目と髪とあご髭は遠くアフガニスタンから運ばれたラピス・ラズリ(瑠璃)でできていました。胴体部分は楽器の共鳴板になっていました。

この竪琴、最初はイラク(シュメールのあった国)大使館経由で、イラクの職人さんに作成を依頼していたのですが、ご存知の通り、それどころではなく、今回はアメリカのハープ製作者に本体の作成を依頼し、牛頭部分は日本でお神輿や文化財の修復などもされている方に依頼して作成しました。音階や演奏方法などは研究中ですので、今回は演奏はできませんでした。

●神殿

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<この写真は東雅夫さんのツイートから拝借>

竪琴の後にあるものは、能では「作り物」と呼ばれているものです。ほとんど舞台装置を使わない能の中で使われる数少ない舞台装置のひとつです。「作り物」にはいくつかの種類がありますが、これは「宮(みや)」と呼ばれるもの。

今回は、これが神殿や宮殿を現しますが、 イナンナの神殿冥界の神殿も両方ともこれです。舞台が天上世界ならばイナンナの神殿になり、冥界ならばエレシュキガルの神殿になります。「文脈でわかれ!」というのが能の方法です。

では、いよいよ舞台が始まります。 

▼プロローグ イナンナ女神への憑依儀礼(神降ろし)

●「よりまし」と神官の登場

SnapShot(0)
<神官と尸童(よりまし)>

薄暗い灯りの中、能管(能の笛)の音に引かれるようにして登場するふたり。向かって左は神官(安田登:能楽ワキ方)。もうひとりの怪しい人はコロス(合唱)の衣装を着ていますが、今回、イナンナを演ずる役者、尸童(よりまし)です(奥津健太郎:能楽狂言方)。神官は、コロスらとともにイナンナ女神を神降ろしして、この尸童(よりまし)に憑かせます。

能の『翁』や、チベットの『ケサル王』の叙事詩など、古代の神聖祝祭劇では、舞台の上で神が「よりまし」に憑依し、そして憑依された「よりまし」が、神として神を演じるということがよく行われます。今回の上演では、「よりまし」が舞台の上でコロスの衣装を脱いで、神であるイナンナの姿に変容して、イナンナを演じます。

登場して最初に謡うのはシュメール語『イナンナの冥界下り』の冒頭部分です。楔形文字で書くとこうなります。

angalta

…が、このままでは「何が何だかわからない」という人が多いので、以下、シュメール語の原文はアルファベットで書きます。これだと発音ができるでしょう?

an gal-ta(アン・ガル・タ:大いなる天より)
ki gal-še(キ・ガル・シェ:大いなる地へと)
ĝeštug-ga-ni(ゲシュトゥグ・ガ・ニ:彼女の耳を)
na-an-gub(ナ・アン・グブ:立てた)


女神イナンナは、「大いなる天」から「大いなる地(冥界)」に行こうと決めるのですが、このときに「彼女の耳を立てた」という表現が面白いですね。本来なら「心を向ける」とすべきところですが、私たちの思う「心」がない時代のお話なので、内面の「心」ではなく、身体の「耳」を向けています。

ちなみになぜイナンナが冥界に行こうとしたのかの理由はどこにも書かれていません

また、この謡は上演中に何度も繰り返して唱えられますので、覚えてしまうと上演中に口ずさめます(笑)。

・コロスの登場


続いて登場するのはコロス(合唱)たちです。

コロス(χορός)とは、古代ギリシア劇の合唱隊のことです。ギリシア劇の中では、劇の背景やあらすじ、あるいは登場人物の内面などを語りますが、私たちの上演では主に「地の文」を語ります。そういう意味では能の「地謡(じうたい)」に近いでしょう。しかし、能の地謡がずっと座っているのに対して、ギリシャ劇のコロスは、身体表現もし、仮面もつけていました。今回も動くし、仮面をつけているので、やはりコロスかな…。

コロスたちは冒頭部分の詞章(アン・ガル・タ…)を呪文のように低吟しながら登場し、「よりまし」の周りをぐるぐると回ります。その間に女神イナンナが「よりまし」に憑依して、やがて物語が始まるのです。

062inana
<コロスたちは「よりまし」の役者の周りをぐるぐる廻って憑依を促す>

061inana
<コロスの衣装から女装に代わり女神イナンナとなった役者:中央>

ここでコロスのメンバーを紹介しておきましょう。本ブログでもお世話になっているシュメール語の高井啓介先生や浪曲師の玉川太福さんも参加しています。

大島淑夫、大金智、金沢霞、笹目有花、高井啓介、玉川太福、塚田里香、中川善史、名和紀子、松山記子(五十音順)


▼序の段 女神イナンナ 冥界に赴く

・捨てていく
 
冥界に心(耳)を向けた女神イナンナは、いよいよ冥界に向かいますが、そのために自分を祀るさまざまな神殿や、神官としての地位を捨てて行きます

コロスたちはšub(シュブ:捨てる)」mu-un-šub(ム・ウン・シュブ:捨てる)」などの言葉を強い音で発し、これからさまざまなものを捨てていくことを示します。

nin-ĝu an mu-un-šub ki mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(私の主人は天を捨て、地を捨て、冥界へと下った)
inana an mu-un-šub ki mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(イナンナは天を捨て、地を捨て、冥界へと下った)
nam-en mu-un-šub nam-lagar mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(エンの地位を捨て、ラガルの地位を捨て、冥界へと下った)
unug-ga e-an-na mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(ウルクのエ・アンナを捨て、冥界へと下った)
bad-tibira e-muš-kalam-ma mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(バド・ティビラのエ・ムシュ・カラマを捨て、冥界へと下った)
zabalam-a gi-gun-na mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(ザバラムのギグナを捨て、冥界へと下った)
adab-a e-šar-ra mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(アダブのエ・シャラを捨て、冥界へと下った)
nibru-a barag-dur-ĝar-ra mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(ニップルのバラグ・ドゥル・ガラを捨て、冥界へと下った)
kiš-a hur-saĝ-kalam-ma mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(キシュのフルサグ・カラマを捨て、冥界へと下った)
a-ga-de-a e-ul-maš mu-un-šub kur-ra ba-e-a-ed
(アッカドのエ・ウルマシュを捨て、冥界へと下った)

ここでちょっとワンポイントシュメール語講座! by 高井啓介先生
イナンナが捨てたエ・アンナとかエ・ウル・マシュとかの「エ」は、本当はex150話)ではなくて、e2E2です。エ・アンナはウルクにあるイナンナのe2(家)、エ・ウル・マシュはアッカドにあるイナンナのe2(家)のことです。

シュメール語で他に「エ」と発音する単語にはe3E3出)もあります。

日本語でも「エ」ということばには「絵」「江」それに「荏」「会」なんかもありますね。それと同じこと。もちろんシュメール人が「エ」とか「エの2」とか「エの3」とか言ってたわけではなくて、日本語と同じで文字で書き分けてました。読み方は全部「エ」です。現代の研究者が文字の読み方を発見するたびに、2とか3とかをつけていきました。だから、e
2ではなくてeで別にいいんです。

これまでにも、これからもシュメール語本文がアルファベットで書かれますけれど、もしかしたら、šeはše
3のことかもしれません。edはed3なのかも!ĝu に至ってはĝu10かもしれないんです!!でもいちいち数字を振るのはめんどくさい!数字は下付きにしなきゃだし!!だからブログではそういうことを基本的にはぶいてあります。本当のところをちょっと覗き見してみたいという方は、さっきのリンク(ETCSLのTransliteration)をクリックしてシュメール語本文を確認してみてください!

・7つの「メ」
神殿や地位を捨てたイナンナは、冥界に向かうために7つの「メ」を身につけます。「メ」というのは、あるいは「神の力」、あるいは「霊力」などと言われています。 

055inana
<「メ」を持ってくるコロスたち:このコロスは実験道場の面々>

舞台の上ではコロスたちが「me mu-un-ur-ur(「メ」を探す)」を何度も何度も繰り返して謡っています。「長いなぁ…」と感じる方もいらっしゃるでしょう。あるいは呪文のような繰り返しに半分あっちの世界に行ってしまう方もいるでしょう。それが神聖祝祭劇なのです。

さて、イナンナが身につける7つの「メ」は以下のものです。

šu-gur-ra men edin-na(野で頭を守る被り物)
na-za-gin di-di-la(小さなラビスラズリ)
na-nunuz tab-ba(卵形のラピスラズリのビーズ)
pala tug nam-nin-a(女主人の衣装のパラ)
šembi lu he-em-du he-em-du(「男よ来い、男よ来い」という眉墨)
 tu-di-da lu ĝa-nu ĝa-nu(「男よ来い、男よ来い」という胸飾り)
har kug-sig(金の腕輪)
gi-diš-nindan eš-gana za-gin(測り棒と測り縄)

5番目の「男よ来い、男よ来い」という眉墨(シェンビ)。前回は舞台上で眉墨を書きましたが、今回は狂言面でそれを表現しました。

054inana
<左から「測り棒と測り縄」、「首飾り」、「金の腕輪」を持つコロス>

SnapShot(5)
<神官が「メ」をつけている間、「メ」を持つコロスはなぜか踊っています(笑)>

SnapShot(6)
<すべての「メ」を身につけた女神イナンナ>

また、「メ」に関しては、過去のブログや『みんなのミシマガジン』にも書きましたので、どうぞ~。
http://inanna.blog.jp/archives/1031419592.html
http://www.mishimaga.com/coffee-issatsu/013.html

 ・ニンシュブルに託す

冥界に赴こうとする女神イナンナは、大臣であるニンシュブル(Junko☆:実験道場)を呼び、「もし自分が三日三晩帰られなければ神々のもとに行くように」と託します。上掲の原文では28~72行の部分です。

長い…。

一昨年に「山のシューレ」@二期倶楽部で上演したときにはすべてやったのですが、さすが長すぎるので、今回はちょっと省略しました。それでも長い。

SnapShot(7) 祈り
<イナンナに呼ばれて馳せ参じるニンシュブル。彼女の手は礼拝の形>

SnapShot(10)
<イナンナに後事を託されるニンシュブル>

ちなみに女神イナンナの声を担当するのは声楽家の辻康介。そしてニンシュブルの声は浪曲師の玉川奈々福です。

058inana 012inana
<辻康介(左)・玉川奈々福(右)>

・冥界に向かう

7つの「メ」を身につけ、そしてニンシュブルに後事を託した女神イナンナは冥界へと旅立ちます。

帰らざる道を辿り辿り
  あらゆる地位や神殿を捨て
行くも帰るもこれやこの
  7つの霊力を身につけ
逢う人もなき黄泉の坂
  イナンナはただひとり
行けばほどなくむばたまの
  冥界への道を辿りつつ旅を続けた

酉歳の名言(中国古典より)

にわとり
<甲骨文字の「鶏」>

あけましておめでとうございます。

旧年中は『イナンナの冥界下り』『海神別荘』天籟能の会、そして寺子屋をはじめ、さまざまなワークショップにお出ましいただき、まことにありがとうございました。

今年もいろいろな企画で、皆さまのご来駕をお待ちしております。

さて、酉歳にちなみ「鶏」に関する章句を中国の古典の中から三つほど選んでみました。

(1)鶏の五つの徳

鶏には、「文」・「武」・「勇」・「仁」・「信」5つの「徳」があるという『韓詩外傳』の言葉です。

・頭の上には冠を載せる、これは「文」
・足であるいは打ち、あるいは防ぐ、これは「武」
・敵を前にしたら敢然と戦う、これは「勇」
・食べ物を得たら仲間に告げる、これは「仁」
・夜を守り時を失わない(必ず暁に時を告げる)、これは「信」

「首戴冠者、文也。足搏距者、武也。敵在前敢鬥者、勇也。得食相告、仁也。守夜不失時、信也。雞有此五德。」出典『韓詩外傳』

「鶏には五徳がある!」と覚えておきましょう。 

(2)鶏とともに起き、善をなす

「雞鳴而起、孳孳為善者、舜之徒也」出典『孟子』(盡心上)

(書き下し文)鷄鳴きて起き、孳孳(じじ)として善を為す者は、舜の徒なり

(意味)鷄が鳴くと起き、せっせと善をなすものは聖人舜の仲間である

孔子が「何もしないのに国を治めることができた聖人(無爲而治者)」として挙げた「舜(しゅん)」。その舜のようになるには、鶏とともに起きて、せっせと善となすことだ、と孟子はいいました。

ちなみに「善をなす」の「善」とは、いまの「よい」とはちょっと違います。『論語』の中では「善」「美」の上位概念として使われています。この両者、中に「羊」がありますね。生贄として使われる神聖な動物が「羊」です。

「美」とは、その立派なものをいいます。そして、「善」とは立派であるだけでなく「羊神判」にも使われるような、さらに神聖な羊をいいます。

ちょっと話をはしょると「善」というのは、声なき声の人々の声を聞き、それに従うことをいいます。あるいは集合的な無意識に従うことといってもいいでしょう。「俺が、俺が」の個に固執せずに、せっせと人のために尽くす、それが「孳孳(じじ)として善を為す」ですね。

(3)双葉山、白鳳で有名になった「木鷄」

「鷄雖有鳴者、己无變矣。望之似木鷄矣、其德全矣」出典『荘子』達生、『列子』黄帝 

(書き下し文)鷄鳴く者有りと雖(いえど)も、己(おの)れ變(へん)无(な)し。これを望むに木鷄に似たり。其の德、全(まった)し。
※「己(おのれ)」は「已(すでに)」と書く本もあります。

(意味)(闘鶏を育てるとき)ほかの鶏で鳴くものがいても、この鶏は動じることがなくなった。これを遠くから見ると木彫りの鶏のように見える。その徳は完全なものになった。

これはかつは双葉山が、そして近くは白鳳が引用して有名になった章句です。

闘鶏の調教の話です。調教が進み、かなり強そうになったのですが、調教師は「まだ」だといいます。その強さは空元気「俺が、俺が」が見えるからです。

さらに調教をして、もういいだろうというと、やはり調教師は「まだ」だといいます。敵を見ると興奮するからです。さらに調教しても、まだ「だめ」という。敵をにらみつけようとするからです。

そして、この「木鶏(木彫りの鶏)」の境地になったとき、これと戦おうとする鶏もいなくなり、みな元のところに戻ってしまったといいます。この話は、『荘子』と『列子』に載っています。

本年が皆さまにとって、よりよい年となりますよう、心より祈念しております。

イナンナ・イラストの中川学さんは何とお坊さん

連続してお送りしております、イナンナのイラストの解説ですが、このイラストを描いてくださったイラストレーターの中川学さんは、なんとお坊さんでもあるのです!わお。

イナンナ3


中川学(なかがわがく)さんは京都に住まいの浄土宗西山禅林寺派の僧侶にしてイラストレーター。

ロンドン発の雑誌『monocle』の挿絵から時代物書籍の装丁画まで幅広いスタンスでイラストを描かれています。

近年では、あの(!)『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(汐文社)の絵本を手がけられる一方、『繪草子龍潭譚』(自費出版)『絵本化鳥』『朱日記』(共に国書刊行会)など泉鏡花の絵本化や京極夏彦『えほん遠野物語やまびと』(汐文社)など怪異絵本を好んで作画されています。

僕(安田)が中川学さんのイラストを知ったのは泉鏡花『朱日記(国書刊行会)』でした(Amazonを見たら4月1日に購入)。

_SX373_BO1,204,203,200_

本の帯には…

あやかしの
色彩が乱舞する
泉鏡花の
幻想世界を描く、
新たなる文藝絵草紙。

…と書かれていますが、まさにそうです。美しくも怪しい世界が本の中から蠢き出てきます。

また、東雅夫さんが編集されている「文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション」の『獣 太宰治・宮沢賢治ほか』の表紙やイラストも中川さんです。

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こちらのシリーズは朗読会をしたいなと思っているんです。

ちなにみ中川さんの近著は、立川志の輔お笑い絵本『しちふくじん』(岩崎書店)

_SX404_BO1,204,203,200_

なんとも幅広い画風です。

そして中川学さんのHPはこちらです。 http://www.kobouzu.net/

▼パンフレットやグッズ

中川学さんのイラストは当日、配布いたしますパンフレットに使わせていただいておりますが、さまざまなグッズも作りました。

●イナンナてぬぐい

まずは「てんらい会員」の更新をしていただいた方のための「イナンナてぬぐい」。こちらは手ぬぐいとしての落ち着きを出すために(能の楽屋でも使えるというコンセプト)、上掲のパンフレット用のイラストよりは色数を少し落として作成しました。

会員更新以外にも、当日の能楽堂寺子屋等でも販売もいたします。販価1,000円(税込)

イナンナ_3色_DIC_02

●クリア・ファイル

そしてA4のクリアファイルです。

クリアファイル

こちらはライオンを従えたイナンナです。下に書かれている楔形文字(シュメール語)は『イナンナの冥界下り』の書き出しの一文です。

an gal ta(アン・ガル・タ)大いなる天より
ki gal še3(キ・ガル・シェ)大いなる地へ
ĝeštug2 ga ni(ゲシュトゥグ・ガ・ニ)彼女の耳(心)を
na an gub(ナ・アン・グブ)立てた(向けた)

こちも明日、販売します。販価400円(税込)

●マグカップ

イナンナのカップで珈琲を飲んで古代の味を想像する…なんてことでマグカップも作りました。

IMG_2995

パンフレット用の全色バージョンと手ぬぐい用のすっきりバージョンの2種類を作りました。

…が、これは限定で作成したので、次の「てんらい」会員更新と、来年度の公演での販売になります。

お楽しみに~。 

イナンナの冥界下り2016カウントダウン(3)楔形文字の解読-続

前回に引き続き、中川学さんに描いたいただいたイラストの楔形文字の解読です。

解説はシュメール語の高井啓介先生。…ですが、いらぬことも書いているので文責は安田登です。

イナンナ3BW

今回は3行目から読んでいきましょう。

▼3、4行目

03+04

3行目と4行目は2行でひとつの文なので、続けて読むことにします。では、まずこの2行を続けてしまいましょう。

03+04c

この文には同じ文字が使われていますね。ぱっと見て気がつくのが6文字目と7文字目

覚えていますか?これは「天」や「神」を意味する「an(アン)」でした。

で、(前にも書いたけど)実は3文字目も同じなのです。「え~、同じに見えない!」という方。あなたの書く「あ」というひらがなと、お友だちの書く「あ」を比べてみてください。たぶん、シュメール人には同じに見えないくらいに違うはずです。

●まずは1文字目

0301

では、1文字目を見てみましょう。これは「me(メ)」と発音します。意味は「私」です。

ちょっと混乱させてしまうかも知れませんが、実はこの文字は違う意味(しかもかなり大切)でも使われます。女神イナンナが冥界に行くときに身につける神のパワー「メ」です。これもちょっと覚えておいてくださいね。

●2文字目

0302

この字は発音は「e(エ)」。ここでの意味は「~は」です。

ですから1文字目と2文字目で発音は「me-e(メ・エ)」、意味は「私は」となります。

●3文字目は見覚えがある

0303

3文字目のこの字は6文字目、7文字目と同じです(ちょっと形は違いますが)。発音は「an(アン)」で、意味は「神」や「天」を現しました。

でも、ここではちょっとだけ違います。ちょっとだけというのは、「神」というのはいいんです。ただ、ここでは神さまという名詞ではなく、「このあとの単語は神さまのことですよ~」ということを示すもので、こういうのを「限定詞」と呼びます。

日本語ですと、「なんとかの」とか「なんとかの命(みこと)」みたいに後ろにつくものが前についてしまうんです。ちなみに漢字ですと「」とか「」とか「示す偏」が漢字の中に入ってしまって、これが神さま系の文字だよ~と示しますね。

ちなみにその場合の発音は「diĝir(ディンキ°ル)」になります。

てなわけで、以下は神さまの名前ですが、それが4文字目から8文字目までです。

●4文字から8文字まで

0304

この5文字は神さまの名前を現しますので音だけを見ていきましょう。6文字目と7文字目はいいですね。「an(アン)」です。

4文字目=ga(ガ)
5文字目=ša(シャ)
6文字目=an(アン)
7文字目=an(アン)
6文字目=na(ナ)

続けてみましょう。

ga-ša-an-an-na

「ガ・シャ・アン・アン・ナ」なんていうロボットだか、戦隊ものだかみたいな神さまのですが、実はこれ「イナンナ」のことなのです。

「じゃあ、なんでイナンナって言わないんだよ」とお怒りの方。

シュメール語には、通常の言葉のほかに女性や神官が使う「エメサル」という言葉があって、このガシャーン!もエメサル。で、「イナンナ」を意味するのです。

●限定詞は上付き文字で書く

さて、このイナンナの前に神さまを現す限定詞、「diĝir(ディンキ°ル)」がありましたね。限定詞をアルファベットで書くときにはdiĝirの最初の「d」を上付き文字で書きます。こんな風に…。

dga-ša-an-an-na

●では、この行の最後の文字を

0305

この字は発音は「ĝen(ケ°ン)」、意味は「~です」

では、この行を続けて読んでみましょう。

「me-e dga-ša-an-an-na gen

「メ(私)・エ(~は)・ディンキ°ル・ガシャアンアンナ(女神イナンナ)・ケ°ン(です)」

「私は女神イナンナです!」となります。

▼5行目と6行目

5行目と6行目も2行でひとつの文ですのでつないでしまいます。

05+06

●1字目と2字目

0501

この2文字は「ma-ra(マ・ラ)」で「私に」という意味なのですが、実はこの2文字(特に1文字目)は、よくわからないんだそうです。

粘土板はシュメールの遺跡から発掘されるのですが、その作業中につるはしなどでガシッと傷つけてしまうことがあり、そうなると文字の判別ができなくなり、「まあ、文脈からこの字じゃないかな」と想像することもあるとか。で、この2文字はそれです。

みなさんも発掘されるときには細心の注意をしましょうね!

●3文字目~5文字目

0502

では、3文字目から5字目です。

お、この真ん中の文字、どこかで見たことがありませんか。そうです。「me(メ)」です。ここでは「音」として使っています。この3つの楔形文字は、すべて「音」として使われています。では、音を紹介しましょう。

「dim3-me-er(ディン・メ・エル=ディンメル)」

始めて出てくる単語ですが、これもエメサル(女性・祭司言葉)で、ふつうの言葉では「diĝir(ディンキ°ル)」。あれ?これもどこかで聞いたことがありますね。

そうです。「神」です。

前は限定詞として出て来ましたが、ここでは「神」という名詞fで使われています。

●6文字目

06tesh

この字は発音は「teš2(テシュ)」、意味は「どの」とか「ひとつの」という意味です。

●7文字目~10文字目

060710

この文のの最後の文字もどこかで見たことがありますね…って、これはだいぶ前なので忘れているかも知れませんが。

1行目の1字目。一番、最初です。「a(ア)」と読みます。この4文字もアルファベットにしてみましょう。

「mu-da-sa2-a(ム・ダ・サ・ア)」です。

これは動詞グループなのですが、この中で動詞は3文字目の「sa2(サ)」、意味は「比べる」です。

ちなみに「動詞グループ」って何だ!とか詳しく知りたい方は、ぜひ高井啓介先生のワークショップにどうぞ!

今は「sa2(サ)」以外の他のものは「おかず」程度に思っておいてください。あ、ひとつだけ。最初の「mu」は、以下が動詞ですよ~ということを示すときによく書かれる文字です。ですから意味はなし。

で、「mu-da-sa2-a(ム・ダ・サ・ア)」の意味は「比べられようか」となります。

●この文の意味

ですから、ここの文は次のようになります。

「ma-ra(私に) dim3-me-er(神) teš2(どの) mu-da-sa2-a(くらべられようか)
どの神が私に比べられようか(私に比すべき神はいない)

▼全体です!

では、全体を見てみましょう。

1行 :わが父(エンリル神)は、私(イナンナ)に天を与えた
2行 :私に地を与えた

3,4行:私はイナンナ
5,6行:私に比すべき神はいない

こんな意味になります。

上記の文は、本来は34行からなる女神イナンナを讃える歌(Inana F; VAT 7025 iii 8-41)の冒頭の3行です。

全文を読みたい方は、オクスフォード大学のETCSL(The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature)で読むことができます。

シュメール語の原文はこちら

英訳はこちら

舞台『イナンナの冥界下り』においては、イナンナ(奥津健太郎)のよみがえりの舞に合わせて、コロスがこれに節をつけて歌います。お楽しみ~。


イナンナバナー

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おかげさまで完売いたしました。ありがとうございました。

■日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 全席自由5,000円(てんらい会員は1,000円引き)
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)

セルリアンタワーまでの行き方動画by実験道場
S__4186139
https://www.youtube.com/watch?v=g27yDsISEXY&feature=youtu.be 

 

イナンナの冥界下り2016カウントダウン(2)楔形文字の解読

12月27日(火)に上演する『イナンナの冥界下り』カウントダウンの第2弾です。

前回は、中川学さんの図像の解説をしました。今回は、左側に書かれているものを解読することにしましょう。

楔形文字とシュメール語の解説は高井啓介先生。で、それをもとに以下を書いたのは安田です…ので、文責は安田にありま~す。

イナンナ3
 
▼楔形文字

左側に書かれている、これ。

楔形文字

そう。これは中学校や高校で、おそくら名前だけは聞いたことのある「楔形(くさびがた)文字」です。楔形文字は、シュメール人が発明した世界最古の文字です。

シュメール人といえば、四大文明のひとつ、古代メソポタミア文明を担った人たちです。現在のイラク周辺。チグリス川ユーフラテス川に挟まれた土地に住んでいました。

でも、シュメール人と聞くと「おお!」という人がいるでしょう。『ムー』を始め、ちょっと怪しい系の本や雑誌でよく取り上げられます。ネットで「シュメール」を検索すると、これまた怪しい話がたくさん。それらの真偽はともかく、でも確かにシュメール人がどこから来たのか、そしてどこに消えてしまったのかはよくわかってはいません(約BC3,500年~BC2,000年)。

突然、出現して文字を発明して、そしてそのおかげで高度な都市文明独自の文化を発達させ、そしてまたどこかへ消えてしまった謎の民族です。

12月27日(火)に上演する『イナンナの冥界下り』は、そんなシュメール人の残した神話を、シュメール語と、そして能(日本語)で上演しようという試みです。今回はさらに電子音楽ヒップホップが加わり、わけのわからなさ満載です。

さて、シュメール人は文字を発明しましたが、しかし、とはいえむろん誰でもが文字を読み書きができたわけではなく、基本的には「書記」と呼ばれる人たちだけが文字を操っていたようです(例外もあり)。

筆記具は、ユーフラテス川に生えていた葦をペン状にしたものです。その先端を粘土を板状にしたもの(粘土板=タブレット)に押し付けて楔形文字と呼ばれる文字を刻みました。てんらいの高井啓介先生のワークショップでは、皆さんと一緒に実際に粘土板に楔形文字を刻み込むこともします。

さて、これからこの楔形文字を読んでいきたいと思います。

この時代にはまだアルファベットは存在しません(当たり前ですね)が、どんな読み方をしていたかを知っていただくため、便宜的にアルファベットで「音」を表現しました。

楔形文字のひとつひとつには「意味(訓)」があり、また同時に同じ文字が「音」を表すこともあります。漢字のようですね。また、語順も日本語とよく似ており、漢字文化に親しんだ我々にはとても理解しやすいことばなのです。 

▼解読の準備

では、実際に解読をする前に、まずは 全体をざっと眺めておきましょう。

楔形文字


行は6行ありますね。英語などと同じく、左から右へ読みます。

楔形文字を始めて読むときには、文字と文字の区切りもよくわからないと思いますが、よく見てみると、同じ文字が何度か使われているのに気づきますか。 

たとえば1行目の3文字目(anと読みます)。これです。

0103

これは、 同じ行の5文字目と同じですね。また2行目の3文字目とも同じです。さらに4行目の1文字目と2文字目にも表れます。そして、ちょっと形は変わっていますが、実は3行目の3文字目も同じ文字です。

また、 3行目の1文字目(meと読みます)。これです。

0301

これは5行目の4文字目(後ろから2字目)と同じです。

このほかにもいくつかあります。

一度、この文章を書写してみると(意味はあまり気にせずね)、いろいろと見えてきます。

▼1行目
 
では、1行目から読んでいくことにしましょう。

01

●最初の文字はこれです。

0101

この字は「a(ア)」と発音します。もともとは「水」を現す楔形文字ですが、ここでは「父」という意味で使われています。

ちょっと余談ですが、漢字の「父」は「斧(おの)」という漢字の上に使われるように、もともとは「斧(おの)」を手に持っている形です。また、「自」という漢字は「鼻」の象形で、もともとは「鼻」を意味しました。このようにもともとの意味が、違う意味で使われることは漢字でもシュメール語でもよくあります。

で、ここでは「父」という意味です。

●次の文字はこれです。

0102

この字は「ĝu(グ)」と発音されます。

正確には「ク°」、鼻濁音です。以下、鼻濁音には「°」を付けますが、鼻濁音が発音できない方、あるいは「鼻濁音って何だかわからな~い」という方は頭の中で「グ」と変換してお読みください。

意味は「私の」になります。

ちなみにシュメール語を学んでいる人は「ĝu10」なんて数字をつけて書きます。

この数字は何かというと、漢字でも同じ発音をする漢字ってあるでしょ。たとえば「カイ」という発音の漢字は「会」「回」「界」「貝」などいっぱいあります。それを「会(カイ1)」「回(カイ2)」「界(カイ3)」「貝(カイ4)」なんてやるようなものです。発見された順番につけているようです。

…というわけで、以下、数字をつけますね。でも、発音は同じなので気にしないでください。

●では、いまの2つを続けて読むと…

01010102

発音は「a-ĝu10(ア・ク°)」で、「私の父」という意味になります。

●それでは3文字目

0103

これは何度も出てきた文字でした。こういうのは覚えてしまうと後が楽です。紙を出して何度か書いてみましょう。

発音は「an(アン)」です。

この文字にはいろいろな意味がありますが、主に「天」「神さま」、そして「an(アン)」という「音」だけでも使われます。

ここでは「天」という意味で使われています。

●あとは続けて…

次の4文字は続けてみてみましょう。

0104

これは「ma(マ)」「an(アン)」「ze2(ゼ)」「eĝ3(エク°)」と発音します。

2文字目に「an(アン)」が見えるでしょう。気がつきましたか。

「ma-an-ze2-eĝ3(マ・アン・ゼ・エク°)」の意味は「与えた」です。

ここでは文法的な説明はしませんが、「ma-an-ze2-eĝ3」という言葉の中で「与えた」という意味は最後のふたつ「ze2-eĝ3(ゼ・エク°)」です。あとのふたつで「彼は・・私に」という意味があることが暗示されるのですが、まあ、そこら辺は気にせずに…。

気になる方は、ぜひ高井啓介先生のワークショップで粘土板に楔形文字を刻みながらどうぞ~。

●では、一行目の意味を続けてみてみましょう。アルファベットで書きますね。

a(父)-ĝu10(私の) an(天を) ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)

はい。意味をつなげます。

「私の・父は・(私に)・天を・与えた」となります。

私の父は私に天を与えた。

おお!簡単。

文法の勉強を全くしていないのに読めてしまう!

これがシュメール語の特長です。

▼2行目

では、この調子で2行目も見てみましょう。

02

これは読み出す前に、1行目と比べてみます(わかりやすいように2行目をちょっとずらしました)。

01+02

あれ?似てますね。後半の4文字が同じです。

いま、やった「ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)」です。

そして、1行目の最初の2文字「a(父)-ĝu10(私の) 」は2行目にはありません。

で、3文字目の「an(天を)」が違う文字になっています。

0201

…となると、この文字さえわかればOKですね。

なんとなく想像がつきますか。「天」に対するもの。そうです、これは「地」です。発音は「ki(キ)」

では、この文もアルファベットで書いてみましょう。

ki(地を) ma-an-ze2-eĝ3(私に与えた)

「地を私に与えた」という意味になります。

▼1行目と2行目

「私の父」というのはエンリル神という神さまです。「私」というのは女神イナンナです。

最初の2行は「父、エンリル神は、私(イナンナ)に天を与え、地を与えた」という意味になります。

では、今日はここまで。続きをお楽しみに~!

イナンナバナー

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残席、あと10席ほどになりました。お申し込みはお早めに!
おかげさまで完売いたしました。ありがとうございました。

■日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 全席自由5,000円(てんらい会員は1,000円引き)
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)

セルリアンタワーまでの行き方動画by実験道場
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https://www.youtube.com/watch?v=g27yDsISEXY&feature=youtu.be 


イナンナの冥界下り2016カウントダウン(1)

12月27日(火)の『イナンナの冥界下り』2016年冬バージョンの上演、一週間を切りました。

当日、みなさまにお配りするパンフレットのイラストを、浄土宗西山禅林寺派、京都瑞泉寺の僧侶にしてイラストレーターでもある中川学さんに描いていただきました。今回は、その図像の意味をシュメール語の高井啓介先生による解説でお届けします。

イナンナ3

▼ふたりの女神

この図像、パッと見ると、ふたりの女性が立っているのが見えますね。

これは天の女王イナンナ女神(左)と冥界の女王エレシュキガル女神(右)です。

ふたりが頭にちょっと変(!)な形の冠をかぶっています。これは「角冠」と呼ばれ、メソポタミアでは神を表現する一つの象徴と考えられています。

二人の神が手にしている、棒と縄、棒と輪は、物の長さを測る基準となるもので、神が世界にもたらす正義の象徴とされています。

では、ひとつひとつの図像を見ていくことにしましょう。

▼イナンナ

まずは、左側のイナンナ女神です。

イナンナ

彼女は、身にまとう「メ(神威)」の一つとして測り縄測り棒を両手に持っています。
 
頭の左側にキラキラと輝く星の三角形を数えてみると8つあります。これは八芒星金星の象徴です。女神イナンナは金星の女神でもあるのです。金星といえば英語でヴィーナス。そう、イナンナは後世、イシュタル、アプロディテ、ヴィーナス(ウェヌス)になります。

今回は狂言方(能楽師)の奥津健太郎が演じ、声は声楽家の辻康介が担当します。

▼ニンシュブル女神

ニンシュブル


イナンナ女神の左にひかえるのがニンシュブル女神。『イナンナの冥界下り』の中ではイナンナの大臣として登場します。彼女はイナンナが冥界で死んだあと、シュメール都市の神殿を巡り歩いて、イナンナを生き返らせて欲しいと神々たちに嘆願します。

演じるのは実験道場のJunko☆。声は玉川奈々福です。 

▼エレシュキガル

次に右側のエレシュキガル女神

エレシュキガル  QueenOfTheNightBW

冥界の女王エレシュキガルは大英博物館蔵の、有名な『天の女王(あるいは「夜の女王」)』と呼ばれるレリーフをモデルにしました。

足元に注目!足の指が人間のそれではありませんね。鳥の脚になっています。

彼女はイナンナのお姉さんなので、ちょっと上から目線。

エレシュキガルがその手に持つのは「棒」と「輪」を組み合わせたもので、支配権の象徴であるとも考えられています。

当日は、観世流シテ方の杉澤陽子が演じ、声は安田登が担当します。

▼門番ネティ神

ネティ

エレシュキガルの右側に控えるのがネティ神。鍵を持っていますね。彼は冥界の入り口にあるというガンゼル宮殿の七つの門を守る門番です。イナンナは七つの門をくぐるたびに、身にまとったメを一つずつ彼にはぎとられていくことになります。

七つの門ということで七体のネティが描かれています。

ネティを演じるのは実験道場の蛇澤多計彦、声は浪曲師の玉川太福です。

▼アヌンナ諸神

アヌンナ

右上にいる4柱の神々は、イナンナに「死の眼差し」を向け、弱い肉(死体)にしてしまう冥界の裁判官アヌンナ諸神です。本当は7柱なのですが、図像では4柱、本番では実験道場の方たちやコロス(合唱)の面々とたくさんの人がそれを演じます。

実験道場:我妻良樹、城ノ脇隆太、蛇澤桂佑、平田雅大
コロス:大島淑夫、大金智、金沢霞、笹目有花、高井啓介、塚田里香、中川義史、名和紀子、松山記子(五十音順)
 
▼2体の精霊

クルガラガラトゥル

イナンナとエレシュキガルの後ろに飛んでいる2体の精霊は「クルガラ」「ガラトゥル」エンキ大神が、冥界に行って戻らぬイナンナを助けるために、自身の爪の垢から作った精霊です。

イナンナの後ろにいるのがクルガラ。手には「命の草」を持っています。エレシュキガルの後ろにいるのがガラトゥル。手には「命の水」を抱えています。

二人はその羽で自由に冥界の門を越えていき、イナンナのもとにたどりつきます。そして二人が命の草と命の水をイナンナに振りかけるとき、イナンナはよみがえるのです。

舞台では二人の子方によって、クルガラとガラトゥルの動作が軽やかにそして爽やかに演じられます。

クルガラを奥津健一郎、ガラトゥルを笹目美煕が演じます。

▼ エンキ神

エンキ
 
イナンナとエレシュキガルの間には、上部に、エレシュキガルを象徴する冥界の月が描かれています。また、下部には、イナンナとされる金星(八芒星)が、文字を表現するのに使われた楔を使って見事に描き出されています。

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<楔形文字>

そして月と金星との間には合掌する神様が描かれています。

よく見ると肩から水が溢れ出ていますね。この神様は水を司るエンキ神。冥界で殺されてしまったイナンナを甦らせた知恵の神です。

▼音楽
当日の音楽は、能楽師笛方の槻宅聡に加えて、今回はなんと!音楽家・DJのヲノサトル他が担当。面白くなりますよ。
 
全体の監修や翻訳は高井啓介(大学教員・シュメール語講師)です。ちなみに高井先生はコロスとしても出演されます。

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残席、少しになりました。お申し込みはお早めに!

■日時 12月27日(火)18時15分開場 19時開演
■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)
■料金 全席自由5,000円(てんらい会員は1,000円引き)
   ※指定ご希望の方は1,000円にて承ります。
■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)