イナンナの冥界下り

シュメール神話『イナンナの冥界下り』を上演するための雑感を書くブログです。

天籟能の会 第六回 能『小鍛冶』、狂言『磁石』

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イラスト:中川学氏

第六回 天籟(てんらい)能の会
2018年9月17日(敬老の日)
開演  午後2時(開場 午後1時15分):5時30分終演予定

 天籟能の会では、本番までの間に行う数回のワークショップや講座で、演目に対する理解を深めていただいてから能をご覧いただきます。

 能は知れば知るほど面白くなります。さまざまな角度から演目を知り尽くしてから能を観る、それこそが観能の醍醐味です。また、ワークショップに出ることができなかったという方のために、当日は演能前の解説と、演能後のアフタートークも用意してございます。

 今回の天籟能の会は「刀剣」をテーマに、観世流の加藤眞悟師をはじめ諸師をお迎えして、能『小鍛冶』を上演いたします。

 勅命を受けた刀匠・小鍛冶宗近が稲荷明神の使いである狐の精霊の相槌を得て、名剣「小狐丸」を打ち上げる、変化に富んだ見どころの多い人気曲です。

 また、三世梅若万三郎師の仕舞『遊行柳』、刀を巡って人商人と田舎者が駆け引きを繰り広げる狂言『磁石』もお楽しみいただきます。

 また、舞台終了後には刀匠の川﨑晶平氏と、思想家の内田樹氏、そして安田登でたっぷり60分間のアフタートークもいたします。

 好評の事前ワークショップも、演目についての講座、能・狂言の基本はもちろん、日本刀を深く知るワークショップや、漫画『KATANA』の作者、かまたきみこ氏やアンソロジスト東雅夫氏をお迎えして、刀剣の怪異についてお話いただくなど、充実の内容でお送りします(日程は後記)。

 ご来場を心よりお待ち申し上げております。

【番  組】
解説  表きよし
仕舞  「遊行柳 クセ」梅若万三郎

狂言「磁石」
シテ・すっぱ  松田 髙義
アド・田舎者  奥津 健太郎
アド・宿屋   伊藤 泰
後見      奥津 健一郎

能「小鍛冶 白頭」
前シテ・尉  加藤 眞悟
後シテ・霊狐(稲荷明神の使)  加藤 眞悟
ワキ・刀匠 三条宗近  安田 登
ワキツレ・勅使 橘道成  高橋 正光
間狂言・宗近の下人  奥津健一郎
笛   槻宅 聡
小鼓  森 貴史
大鼓  大倉 栄太郎
太鼓  徳田 宗久
地謡  梅若紀長
    青木一郎
    八田達弥
    長谷川晴彦
    梅若泰志
    古室知也
    梅若久紀
    青木健一

後見  梅若万三郎
    梅若万佐晴
    中村裕

脇後見 吉田祐一

アフタートーク
川﨑晶平(刀鍛冶)×内田樹(思想家)×安田登

・終演予定 5時30分頃

■チケット種別と料金

正面S席:10,000円
正面A席:8,000円
脇正面席:6,000円
中正面席:4,000円
GB席:  4,000円(脇正面の後方席)

※学生・てんらい会員は1,000円引き
(てんらい会員の募集は終了しました)

■問合せ・申込み先
チケットのご予約、公演・ワークショップのお問合せ
天籟能の会事務局
E-mail noh@watowa.net
TEL 080-5520-1133 (9時~20時)
FAX 03-3717-3507  (9時~20時)

ファックスやメールでお申し込みの方は、以下のことをお書きいただければと存じます。
ご住所 〒
ご氏名
ご連絡先(電話、メールなど)
ご希望の席種・枚数  ●席 ●枚
出演者から公演案内があった方は、出演者名をご記入ください:

■会場
国立能楽堂

【ワークショップ】
●第1回  5月31日(木)「能と狂言を楽しむ」
      -能『小鍛冶』と狂言『磁石』-

●第2回  6月14日(木)「刀剣ワークショップ」
      ゲスト:刀匠・川崎晶平氏

●第3回  6月27日(水)「シテ方から見た『小鍛冶』」
      ゲスト:観世流シテ方:加藤眞悟師

●第4回  7月17日(火)「小鼓と大鼓」
      ゲスト:小鼓:森貴史師(幸流)と大鼓:大倉栄太郎師(大倉流)

●第5回  7月31日(火)「刀剣と能と怪談と」
      ゲスト:漫画家かまたきみこ氏(漫画「KATANA」作者)、
          アンソロジスト東雅夫氏

●第6回  8月30日(木)「未定」
      これまでのWSで足りなかったものをする予定です

●第7回  9月10日(月)「公演直前まとめ」―初めての方もぜひ―

追加ワークショップなどのイベントの情報はツイッターで随時発信しています。最新情報はツイッターでご確認願います。
Twitter @eutonie

参加費 お賽銭  各回19時~21時
会場 東江寺
   渋谷区広尾5-1-21 東京メトロ日比谷線[広尾駅]下車徒歩5分
   広尾商店街突き当りの山門をくぐって右側
   ※ワークショップや天籟能の会に関するお寺へのお問合せはご遠慮ください

飛び込み参加も可能ですが、資料をご用意する都合上あらかじめお申し込みいただけるとたすかります。都合により日程および会場変更等の可能性もございます。あらかじめお申し込みの方へは、変更があった際にご連絡をいたします。

ワークショップのお申込みは以下(寺子屋のメール)でも受け付けております。
info@watowa.net

*****曲目解説*****

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イラスト:中川学氏

能:『小鍛冶 白頭』
夢のお告げを受けた一条天皇は、刀匠、三條小鍛冶宗近(ワキ)に剣を打つよう命じます。しかし、宗近は自分と同等の相鎚を打つ者がいないために打てないと一度は断ります。が、天皇の命令、断り切ることはできない。そこで氏神である稲荷明神に参詣します。

すると、不思議な老人(前シテ)が現れて言葉を交わします。老人は剣の威徳を称える中国や日本の故事を語り、自分が相鎚を勤めようと約束して稲荷山に消えて行った。

宗近が鍛冶壇に上がって礼拝をしていると稲荷明神のご神体(後シテ)が狐の精霊の姿で現れ、ともに剣を鍛え上げるのです。

『小鍛冶』の前シテは通常は童子ですが、白頭になると尉(老人)に、後シテが赤頭から白頭になり、スケールの大きな存在の霊狐になって、地謡、囃子は緩急をつけて奏します。

謡、型、舞ともに聞きどころ、見所の多い作品です。ワークショップでは、みなさんと謡を謡ったり、型をしてみたりします。

狂言:『磁石』
遠江国見附の国府(現在の静岡県磐田市)に住む男が喧嘩をして地元から追われ、京の都に向かいます。大津(滋賀県)まで来たところで有名な松本の市を見物していると、目を付けたすっぱ(詐欺師)に言い包められ、案内されるままに宿をとることになりました。

このすっぱ、実は人売りで宿の亭主もぐるでした。二人のやり取りを盗み聞きした遠江の男は逃げ出そうとしますが、すっぱに成り済ましてまんまと代金を手に入れます。事態はすぐに露見、すっぱは太刀を持って男を追い詰めます。万事休す、男は突然、太刀に向かって「呑もう~」。すっぱが何事かと問うと、男は磁石の精と名乗るのですが…。

中世の市井を舞台にそのままあげたような、たくましく生きる庶民を活写した名作の狂言です。
 

欧州公演報告(文責:玉川奈々福)

イギリス、リトアニア公演から帰国しました。

安田先生のご報告で十分なのですが、「奈々福さんも書いてくれると思います」と、ツイートされたので(!)、座長とは違う、所属芸人の呑気な旅行記を書かせていただきます。

 3年前から始まった「イナンナの冥界下り」プロジェクト。2014年の、二期倶楽部「山のシューレ」での初演以来、過去8回、を上演してきましたが、一度も同じバージョンでやっていないのです。

 いろいろ試演し、欧州公演には、今までに上演したものの、ベストバージョンをもっていく!

……ということだったのですが、渡欧メンバーが、なかなか決まらない(笑)。

 やっと決まったと思ったら、なんと欧州公演オリジナル、ニューバージョンで、安田先生が人形を遣ってイナンナを演じられるという(驚愕!)

 

 お人形は、昨年秋に上演した、泉鏡花原作「海神別荘」公演@金沢21世紀美術館のときに、実験道場のダンサーたちや、子どもたちがかぶったお面を製作してくださった、造形作家の山下昇平さん。

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(イナンナが釣るさげられているところ)


 でも、そのアイディア、聞いたときにものすご、躍動しました。人形が、まさしくお能の舞をするわけです。それって、もっともイナンナにふさわしい!

 そしてできてきたお人形が……これがまた、すごかったのです。

それは、海外公演において、本領を発揮しました。

安田先生が黒子装束となり、本体を胸元にひっかけて、手を遣われます。

 このイナンナに対して、冥界の女王であるエレシュキガルは、観世流シテ方の杉澤陽子先生。面をつけられ、闇の色の衣裳をまとわれ、こちらも外国人からみたら、五角形の、異形のものが来たと思われるような姿。

 

 今回は国際交流基金の助成がおりなかったこともあり、ミニマムな編成で、一行は14人です。初演のときは40人近かったのではなかったかなあ。

 

 先発隊は10日にロンドン入り、コーディネイターのロンドン大学、リチャード・ダンブリル先生と連絡をとりながら準備を進めてくれます。後発隊は、12日昼のブリティッシュ・エアで、ロンドンへ。

 

渡欧前に、字幕を含めた通し稽古は結局一度もできませんでした。だいたい、メンバーの一人、エレシュキガルの声を演じる辻康介さんはミラノから来ての合流だし。

でも、安田一座というのは、メンバーのヲノサトルさんいわく。

 

「安田組はいつもギリギリまで何も決まらないので、全てキッチリ事前に決定してないと不安になるタイプの人は胃に穴があくかもしれないが、当方のように「じゃ、まあ、現場で…」で大体のことを済ます人間にとってはじつに気楽なプロジェクトだ」

 

……と、のんきに構える人ばかりなので、さして慌てません。

 

「しかも安田さんの「出たとこ勝負」は、単に怠惰でギリギリまで決めないのではなく「""の世界では、事前に決めず集まったその場でセッションしていくのが流儀」という伝統的な根拠があるので安心だ(いや毎回不安です)

 

……のんき、そうに構える人ばかりなので、慌てません。

 

 ところが、今回の企画の監修、翻訳、コーディネイト訳でいらした、高井啓介先生が直前にご都合で渡欧できなくなるという最大のアクシデント!

ここで、ヲノさんはつぶやきます。

 

「面白くなってきたぜ……」

 

……ま、なんとかなるさと思いながらロンドンに入り。高井先生にお願いする予定だった字幕オペレーションは、本来動画撮影担当のはずだった、笹目有花さんが担当することになりました。

 

 13日は、本来ワークショップの予定だったのですが、連絡ミスでできなくなったので(よくもトラブルが重なるものよ)、もっけの幸い、自由時間になる……予定だったのですが、まずは打ち合わせ。冒頭のご挨拶をどのようにするか、私は文章を考えなければなりません。いつもはアドリブで勝手にしゃべってしまう奈々福ですが、今回は通訳の空伊ナディアさん(大臣ニンシュブル役、兼通訳、兼現地コーディネイト)に事前に原稿をお渡ししておく必要があります。

その他にも、字幕、パンフレット、台本、そして、現地調達の小道具類のこと。本番開始の時間までに詰めなければならないことは数かずあり。安田先生のお仕事量、ハンパではありません。
 

でもっ!!!

ロンドンまで来て、大英博物館も見られないなんて!!!

ホントは原稿書かなくちゃいけないけど、夜中にやればいいやってんで、一人で抜けだして大英博物館へ(あとで聞いたらみんなそれぞれ抜けだしてました)。

 

やっと来られた大英博物館。

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見つけた見つけた、古代メソポタミアの部屋。ほんとはここでやりたいねっていう話も出ましたが、遺物はあってすばらしいけれど、ちょっと狭くてここではさすがに無理かな。

でも有名な、シュメールのエレシュキガル像、ウルの竪琴、スタンダード、公演前に間近で見られて、地図やお墓の構成が、副葬品やいろいろ……ぶわっとイメージふくらみました。

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(ウルのスタンダード。ラピスラズリが美しい……)

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(ウルの竪琴)

 しかし、大英博物館、フリーなんです。なにより驚く。日本のショッピングモールを歩いているかのごとき、親子連れの多さ、混み具合。博物館が、こんなに身近なんですね。

 

夜。本来はWSをする予定だった、現場近くの場所で、通し稽古(初めて!)。

でも場所が狭くて本来の動きはできず。

 

いよいよ出たとこ勝負度はあがってゆく。面白くなってきました。

 

14日、公演当日。午前中、前日神隠しのように紛失した譜面台を買いに、街へ出る。ロンドンの中心部の街並みの美しさ。石造りの建物は古く、扉まわり、窓まわりのデザインが本当に洒落ています。

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陽気なロケンロールのお兄ちゃんのお店で譜面台を無事getして、宿に戻ります。

お昼に、ロンドン大学のリチャードさんと、現場となるセナートハウスでお会いできることになり、安田先生と奥津さん、そして急きょ手伝いに駆りだされた、安田先生のご友人、ロンドン在住の五味さんと奈々福でお会いしました。

 リチャードさんは、中近東音楽考古学がご専門。古代メソポタミアの竪琴の調弦について、英語で講義してくださいまして、私はちんぷんかんぷんでしたが、安田先生「I got it!」と大興奮。

 現場のチャンセラーホールを、そっと下見。うつくしいホールです。

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 聞けば、けっこう予約が入っていて、120席ならべた会場、ほぼいっぱいになる予定とか! 安田先生から、「蜷川幸雄も、野田秀樹も、最初のロンドン公演は客が入らなかったのだ、ましてイナンナなどには……」と脅かされていたので、これにはびっくり。リチャード先生のご尽力のおかげです。しかも、大英博物館やロンドン大学のシュメール語専門家の方々も12名様ご来場予定という……安田先生、シュメール語、間違えられませんね(笑)。

 

 5時に楽屋入り、からは準備あっという間! 私はニンシュブルの舞などに三味線をつけるのですが、屋内の超乾燥と、外の湿気と、寒暖差の激しさに、三味線の皮がやられないかひやひやしながらつないでおりました。

 

 リチャード・ダンブリル先生のご挨拶に続いて、大英博物館のジョナサン・テイラー先生の解説があり、いよいよ開演。日本語とシュメール語の楔形文字と、英語が並ぶ字幕が投影されて、アンガルタ、キガルシェ、ゲシュトゥッガニ、ナーアングブ……がチャンセラーホールに響きます。日本からも、またパリからも来てくださったお客様もいらっしゃいます。

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(奈々福のご挨拶+解説 通訳は空伊ナディアさん)

 

 ……お客さまの反応はすばらしかったです。リチャード先生と、ジョナサン・テイラー氏の興奮ぶり。楔形文字に描かれた世界が、声と姿をともなって目の前で立ちあがる……専門家の方たちにとって、それはどんな感じの体験だったのでしょう。

 

大英博物館のシュメール専門のJonathan Taylor 氏(@JonTaylor_BM)の、公演直後のツイート。

the performance last night was really amazing @alyahudu. Unforgettable. We're all still buzzing about it. It brought the story to life in such a powerful and convincing way. All students and anyone else interested in Sumerian literature should see it. Is there a DVD?

(『昨夜のパフォーマンスは本当にアメージングだった!忘れられない時間だったよ。まだみんな『イナンナ』についてバズってる!物語にあんなに力強くわかりやすいやり方で命を吹き込むなんて!シュメールの文学に関心がある学生でも誰でもみんなあの舞台を見るべきだ。ところでDVDはあるのかい?』高井啓介:訳)

 

それから、ナディアさんがあとからリチャード先生から聞いたのは、「ロンドン公演を見て、大映博物館のスタッフが主催しなかったことを悔やんでる(British Museum told me that they regretted not to have hosted you! )」との言葉。

 

ふふふ。

 

一般のお客様の感度の高さにもびっくりしました。声を褒めていただき嬉しかったです。

 その夜は、祝杯。

 

15日、7時に宿を出て、ヒースローへ。ヘルシンキ経由、ヴィリニュスに移動。フィンエアは、機内がきれいで広く感じました。ヘルシンキからヴィリニュスは、なんとプロペラ機ですが、いまどきはもう揺れたりしないんですね。快適。安田先生は隣り合わせた怪しいイギリス人とずっとおしゃべりされてました。

 到着、現地コーディネイターである、安田先生のご友人、グレタさんと会う。リトアニア公演のみ参加の、電子音楽のヲノサトルさんと合流。

ディナーはリトアニア料理。噂によると、リトアニアではビーバーの肉を食べるそうだと誰かが言い出して、盛り上がっていたのですが、グレタさんに聞くと「食べませんよ」。

 噂はアテになりません。

 しかし、リトアニア料理、感動的においしかったです。

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(リトアニア料理の「ツェッペリン」(!)ジャガイモのもちもちの団子の中にひき肉。サワークリームや豚の脂のソースをかけて食べます)


16日、いきなり本番の日です。

当初はヴィリニュス大学が会場予定でした。ところが、渡欧2週間前に突然会場が使えなくなったという現地からの報せ。

 聞けば、2月16日は、リトアニアに独立記念日だそうなのです。しかも独立からちょうど100年という、大変メモリアルな日だから、どこも閉じてしまうのだとのこと。

 がーん。

 な、はず。ところが、ここがわたしどもの呑気なところです。

 行けばなんとかなるさ。寒くなければ外でやろうけど、さすがに-10℃じゃキツイから、どなたか個人宅でやらせてもらってもいいではないか。

 安田一座にいると、こういう図太さが培われるという、効用があります。

 

 渡欧10日前にグレタさんから連絡。場所が決定したとのこと、それが、な、な、なんと。

 ……国立劇場。

 グレタさん、何者ですか。10日前に国立劇場を予約できるとは。

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 (国立ドラマ劇場正面の像)


 その国立ドラマ劇場小ホールに午前中から詰めました。漆黒に塗られたすばらしい舞台で、客席数171。ところが、満席以上の予約な由。いや~びっくり。

 グレタさん、何者ですか。10日間で180人集めるとは。

 

 照明音響のスタッフもいらして、それも臨機応変に変えてくださる。リトアニア語で「ありがとう」は、「アチュ!」。ホントにスタッフの方々の陽気で身軽な対応に「アチュ!」でした。

そうなると、こちらも、ああしてみよう、こうしてみよう、その場限りの舞台がつくられていく!

 漆黒のスクリーンに映し出された字幕の美しさ。中川学さんに描いていただいた絵が映えました。

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 この劇場で、釣るされたイナンナにスポットが当たるのを見て、ぎょっとしました。

 日本でも、ロンドンでも、この人形を見てきたけれど、この劇場で、照明を当ててみると、昇平さんがつくったこの人形は、まるで能面のようにさまざまに表情を変えるのです。つるされているときは、瞼を閉じているようで、眠れるイナンナ……昇平さんの本領はこれか! ……驚きました。

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(安田先生が遣っているのだが、黒子になっているので、後ろに誰もいないようにみえる!)


 開演の15時までがこれまたあっという間!


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(笹目さんの字幕オペレーションのリハ)


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(グレタさんと劇場スタッフと、安田先生)


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(楽屋もゆったり。素晴らしい環境でした)


 この公演でも、東京から、ロンドンから、来てくださった日本人のお客様、何人も!

 ロンドン公演で勢いづき、そしてこの劇場とスタッフとリトアニア料理のすばらしさに勢いづいたチーム安田、この公演は過去最大に前のめりで、勢いづきすぎて。

舞台上で、いっぱいいろんなことが起きてしまいました。

 でも、それへの対応能力も、このチーム、高い。というか、必ず安田先生がなんとかしてしまう。

 

 子方の一人が舞うときに、いつもは扇を持つのに、この日、粟の穂を持って舞いました。

 粟の穂には、黄色と緑と赤のリボンが結わえてありました。

 黄色は実りの色。緑は自然の色。赤は独立のために流された血の色。

 この国の国旗の色です。

 これを、開演直前に差し入れてくださったのは、フラワーアーティストの塚田有一さんご夫妻。ご子息様のシンイチさんがヴィリニュスに留学しておられるので、そのご縁もあり、東京から来てくださったのです。

 

 終演後のご挨拶で、満席の客席に向かって、

「これは私たちからの、ささやかなお祝いの気持ちです。独立記念日、おめでとうございます」と申し上げる役を果たせたことは、とても光栄でした。

 ブラボーの声。やはり、お客様がすばらしい。なかなか、帰らない。

 プロジェクトのいちおうの最終公演として、我ながらとてもいい舞台だったと思います。

 

 ディナーの前。暮れ行くヴィリニュスの旧市街を一時間ほど、みんなで散策しました。


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極寒の中でしたが、世界遺産に登録された美しい町は、国旗の色のイルミネーションで彩られ、大勢の人がでていて、熱気がありました。ほんとうに、寒さを感じなかった。

 

 美しい建物の窓からはあたたかい光が漏れ、中では大勢の人たちが食卓を囲んでおしゃべりしていた。おとぎの国を歩いているようでした。

 

 ああ、せめてもう一日、ヴィリニュスで遊べたら!

 翌日は九時半集合、すなわちタクシーに乗っけられ、ヴィリニュス空港からヘルシンキ経由、成田。ミッションは、完了しましたが、あーそーびーたりなかったようっ!

 

 以上、広報部長からの報告でした。

『イナンナの冥界下り』欧州公演(4)ちょっとの息抜き:イギリス

『イナンナの冥界下り』欧州公演は、ギリギリの日程だったので、観光はまったくできませんでした。

しかし、会場であるロンドン大学のSenate Houseが大英博物館のすぐ近くだったので、大英博物館のメソポタミアの部屋だけは見ることができました。そして、そのとき撮った写真をもとに、朝食の時間にプチ・シュメール語講座などもしました。

まずは、このタブレットを見つけて、みんな大喜び!1行目に「女神イナンナ」とあります。まあ、それに気づくというだけで、ただ者ではないメンバーたちですが(笑)。

女神イナンナの宮殿を、ウルナンム王が建てたというタブレットです。ウルナンム王とは、ウル第三王朝の初代の王で、ハムラビ法典よりも古いウルナンム法典を成立させたことで有名な王様です(というほど有名ではないかもしれまんせんが)。

inana_tab

1.dinana(女神イナンナ)

2.nin e2-an-na(アンナ神殿の主)

3.nin a-ni(彼の女主人のために)
4.Ur-dNammu(ウルナンム王)

5.nitaḫ-kalag-ga(強い男)

6.lugal-Urim5ki-ma(ウルの王)

7.lugal-Ki-en-gi-Ki-uri-ke4
(シュメールとアッカドの王が)

※以下は次のタブレットより補足
e2-a-ni
(彼女の神殿を)

mu-na-du3(建てた)

◆◆◆◆◆◆◆◆
せっかくなので、朝ごはんのプチ講義のプチ再現をば(まずは1行目と2行目のみで失礼します)…。

【1行目】
inana01

左側の星マークは、神さまを表します。読み方は「ディンギル(diĝir)」とか「アン(an)」とか。


ここでは「限定詞」といって、これが神さまであることを示すシルシです。

右側が「イナンナ(inana)」。もともとはこんな形です。

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これが横になって、さらに変化して右側のようになりました。

この1行目で「イナンナ神」。

【2行目】
 inana02

1字目は「ニン(nin)」。女主人と書きましたが英訳では「Lady」。偉い女性です。

ふつうの女性は「ムヌス(munus)」。楔形文字はこうです。

woman

楔形文字は、もとは縦書きだったので、
縦書きのものを示せばこれです。

woman


もう、モロ、女性ですね。これに右側の箱のようなものがついて、偉い女性、女主人になります。

2文字目は「エ(e2)」。家や宮殿、神殿を表します。

3文字目は、さっきの神さまマークです。「ディンギル(diĝir)」と「アン(an)」という2つの読みがあるといいましたが、ここでは「アン」の方です。

4文字目は「ナ」という音符です。

ですから2文字~4文字目で「エアンナ」、アンナ神殿という意味になります。ウルクにあったイナンナの神殿です。

ウィキには次のように書かれています。

E-anna

◆◆◆◆◆◆◆◆

時間ができたら3行目以下も書きますね。食事をしながらお話だと気楽ですが、文字にするのは大変です。

さて、7行目を見てください。

よく、シュメールは日本の「すめらみこと」の「すめる」と同じだから、日本とシュメールは関係がある!なんていう人がいます。しかし、このタブレットを見ればわかる通り、シュメールのことをシュメール語では「キエンギ(Ki-en-gi)」といいます。

「シュメール=すめる」は、かなり無理がある話だということがわかります(笑)。

◆◆◆◆◆◆◆◆

以下のタブレット(上のタブレットの横に置かれています)は、やはりウルナンム王が神殿を建てたとあるのですが、1行目の神さまの名前がわかりませんでした。そこで高井先生に教えていただき解決しました。困ったときの高井先生!

これは「ニミンタッバ」というエンリルの門番のような神さまだそうです。となると『イナンナの冥界下り』におけるネティのような神さまですね。冥界の門番ネティも神さまなのです。

nimintaba

1. dnimin-tab-ba (ニミンタッバ神)

2. nin-a-ni (彼の主人(のために))

3. Šul-gi,(シュルギ)

4. nitaḫ kal-ga(強い男)

5. lugal uri5ki-ma(ウルの王)

6. lugal ki-en-gi ki-uri-ke4
(シュメールとアッカドの王が)

7. e2-a-ni(彼の神殿を)

8. mu-na-du3(建てた)

◆◆◆◆◆◆◆◆

これまでならば、「ふん、ふん」と通り過ぎてしまう楔形文字のタブレットを読むことができるのも、高井啓介先生のおかげです。大英博物館に行っての楽しみがまったく違います。

みなさまも大英博物館に行かれたら、ぜひタブレットを「見る」のではなく「読んで」ください。

そのほか、イナンナ門の飼い葉おけにイナンナマークを発見したり、夜の女王のレリーフを見て、これがエレシュキガルか!と感慨にふけったり。

ふつうの観光ではない楽しみができ、そしてそれが(おそらく)演技にも活きたのでは…。

『イナンナの冥界下り』欧州公演(3)帰国しました

『イナンナの冥界下り』欧州公演、無事に終えて一同、帰国しました。

さまざまなご支援、まことにありがとうございました。

さて、今回の公演の概要です。公演写真は固定のビデオカメラから抜き出して、後日にアップします。

<ロンドン(イギリス)公演>
2018年2月14日(水)19時開演
場所:ロンドン大学 Senate House, Chancellor’s Hall
※この長い通路を橋掛かりのように使いました。
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※玉川奈々福さんの解説と、それを通訳する空伊ナディアさん(英国生まれ)。きれいな通訳の人だなぁと思ったら、ニンシュブルで出て来たびっくりした!とお客さんが言ってました(笑)。

観客 120名(シュメール語が堪能な方12名)
ロンドン側コーディネイト: Richard  Dumbrill氏(ロンドン大学)

<ヴィリニュス(リトアニア)公演>
2018年2月16日(金)15時開演
場所:リトアニア国立ドラマシアター小ホール
(Lietuvos nacionalinis dramos teatras Mažoji salė)
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※リトアニアでも陽気に解説をする奈々福さんです。通訳はコーディネイトもしてくれたグレタ。グレタとは昔からの知り合いなのですが、なんと数えてみたら18年ぶりの再会でした!

観客 180名強(180名の会場で通路に座っていた人がいた)
リトアニア側コーディネイト: Greta Vaitkute氏、塚田愼一氏

<イナンナ欧州公演メンバー>
高井啓介(監修、翻訳、日本側コーディネイト)
  ◆
女神イナンナ:安田登(能楽師ワキ方)
イナンナの人形制作:山下昇平(造形作家)
冥界の女王エレシュキガル:杉澤陽子(能楽師シテ方)
エレシュキガルの声:辻康介(イタリア古楽歌手)
大臣ニンシュブル:空伊ナディア(ダンサー)
ニンシュブルの声、語り:玉川奈々福(浪曲師)
冥界の門番ネティ:奥津健太郎(能楽師狂言方)
精霊クルガラ:奥津健一郎(子方)
精霊ガラトゥル:笹目美煕(子方)
  ◆
コロス:大島淑夫
コロス:和泉 薫
  ◆
槻宅聡(能楽師笛方)
ヲノサトル(音楽家)リトアニアのみ
北川真理子(太鼓)
  ◆
<スタッフ>
笹目有花(字幕担当)

『イナンナの冥界下り』欧州公演(2)公演用字幕

『イナンナの冥界下り』欧州公演のブログ、前回はスクリプトを公開しましたが、今回は公演用の字幕を公開いたします。

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実際に声に出される音(シュメール語、日本語)を上段に、英訳を下段に書いています。

字幕最終版201のコピー

ETCSL(The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature - University of Oxford)のサイトをもとに、基本を安田が作り、高井啓介先生がチェックをしてくださいました。日本語部分の翻訳は、おもに空伊ナディアさんです。

本番での字幕送りは笹目有花さんでした。シュメール語と英語がわかる必要があり、なかなか重要な役です。

表紙の絵は、中川学さんです。京都の瑞泉寺さんのご住職でいながら、イラストレーターとしても活躍されています。安田の『あわいの時代の『論語』: ヒューマン2.0』の表紙も描いてくださいましたし、京都にお邪魔するときには、瑞泉寺さんで寺子屋を開催してくださったりもしています。

これも、前回のスクリプト同様、ダウンロード自由です(スマホからはうまく見ることができません。すみません)。


本当は、ご自分でも改変できるようにパワポのファイルでアップしたいのですが、どうもこのブログでは難しいようです。ちょっと考えてみます。

『イナンナの冥界下り』欧州公演(1)スクリプト

2018年2月16日(金)。

ただいま『イナンナの冥界下り』欧州公演の真っ最中です。

高井啓介先生 @alyahudu のシュメール語の授業に安田が出席し、『イナンナの冥界下り』を読んでから始まったこのプロジェクト。

最初は、『イナンナの冥界下り』を謡で謡ってみよう!というものでしたが、いつの間にか「上演しよう」になり、さらにはアーツカウンシル東京の助成も得て「ロンドンで上演しよう」と膨らみに膨らみ、今回それが実現されました。

おととい、14日(水)にはロンドン大学のSanate HouseのChancellor’s Hallで公演を行い、今日はこれからリトアニア(ヴィリニュス)公演です。

大英博物館の『楔形文字(cuneiform)』の著者のおふたり、Irving Finkel氏やJonathan Taylor氏をはじめ…

buneiform


シュメール語を解する方が12名もいらっしゃるという不思議なお客さんの前での上演でした。Jonathan Taylor氏は解説も!なんとぜいたくな。

終わってからIrving Finkelさんは「シュメール語、完璧だった(セリフはシュメール語で謡うのです)」と。そして、Jonathanはツイートしてくれました。


『昨夜のパフォーマンスは本当にアメージングだった!忘れられない時間だったよ。まだみんな『イナンナ』についてバズってる!物語にあんなに力強くわかりやすいやり方で命を吹き込むなんて!シュメールの文学に関心がある学生でも誰でもみんなあの舞台を見るべきだ。ところでDVDはあるのかい?(高井先生訳)』

また、今回のロンドン公演で、骨を折っていただいたのはロンドン大学の中近東音楽考古学の
Richard Dumbrill氏。Richardとはランチをご一緒して、シュメールの音楽について大いに盛り上がりました。

richard

Richard Dumbrill氏は、日本でも講演をされたいとか!ぜひ、実現を。

さて、今回、お客さんに配っている台本です。安田が基本を作り、高井啓介先生にチェックをして、さらに整形していただいたものです。英訳はOxford大学の『The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature - University of Oxford』を元に、日本語のところは空伊ナディアさんにお願いしました(なお、実際の上演時にはさらにちょっと変わりましたが)。ご自由にダウンロードしてください。

すみません。スマホでは見にくいですが。


"Inana's descent to the nether world" in London and Vilnius

The Sumerian Story of Inanna's Descent to the Nether World is one of the oldest surviving myths. This performance re-tells that story through the world's oldest theatrical form, Japanese Noh theatre。

Ancient Sumerian and Japanese have linguistic similarities which allow for the adaptation of the Sumerian text with Japanese utai songs and katari narratives.

 "Inana's descent to the nether world" in London and Vilnius

London, UK
2018 WED. THE 14th FEB.  at 19:00
Chancellor’s Hall,  Senate House, 
University of London

***************************
Vilnius, Lithuania  
Kas: Noh teatro ir šokio spektaklis šumerų mitologijos motyvais
"Inanos nužengimas į niekieno pasaulį"

Kur: Lietuvos nacionalinis dramos tratras Mažoji salė, įėjimas iš Odminių
g. pusės
Kada: 2018 m. vasario 16 d. 15:00 val.

Šumerų kalba su anglų k. subtitrais

Renginys nemokamas, tačiau reikalinga išankstinė registracija el. paštu:
grettitavai@gmail.com

イナンナの冥界下り:欧州公演

先日、玉川奈々福さんがお知らせしましたが、今月の12日(2018年2月12日)から『イナンナの冥界下り』欧州公演に行ってまいります。

先発グループは、今日(10日)出発し、イギリスで事前準備をしてくれています。

次のような日程です。

『イナンナの冥界下り』欧州公演

2月14日(水)ロンドン(イギリス)
ロンドン大学 セネートハウスライブラリー
UNIVERSITY OF LONDON
SENATE HOUSE LIBRARY

2月16日(金)ヴィリニュス(リトアニア)
リトアニア国立ドラマシアター(小ホール)
Lietuvos nacionalinis dramos teatras(Mažoji salė)
※リトアニア公演は参加費無料です。いらっしゃる方はGretaさんあて(以下)にメールをお願いします。
grettitavai@gmail.com

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英語とリトアニア語が見開きになっている欧州公演のパンフレットです。中川学さんが描かれたイラストをお借りして作りました(画像をクリックすると大きくなります)。本番では、これに台本をお付けして、お客さまに配布します。

裏_最終







イナンナ欧州公演概要決定!(文責:玉川奈々福)

皆様大変ご無沙汰をいたしました。
6月24日に、「イナンナの冥界下り」古代編・未来編をセルリアンタワー能楽堂で上演した後、
安田一座は、このプロジェクトとは別個の作品として、泉鏡花原作「天守物語」を、10月に金沢21世紀美術館で上演いたしました。
その後は、欧州公演のための準備などで……長らくのご無沙汰をお許しくださいませ。

さて、いよいよ、三年計画のこのプロジェクトの最終年度、最終目的である欧州公演の概要が決定いたしました。

「イナンナの冥界下り」欧州公演

高井啓介(監修、翻訳)
  ◆
安田登(女神イナンナ/能楽師ワキ方)
杉澤陽子(冥界の女王エレシュキガル/能楽師シテ方)
辻康介(エレシュキガルの声/イタリア古楽歌手)
Nadiah(大臣ニンシュブル/ダンサー)
玉川奈々福(ニンシュブルの声、語り/浪曲師)
奥津健太郎(冥界の門番ネティ/能楽師狂言方)
奥津健一郎(精霊クルガラ/子方)
笹目美煕(精霊ガラトゥル/子方)
  ◆
槻宅聡(能楽師笛方)
ヲノサトル(音楽家)リトアニアのみ
  ◆
大島淑夫(コロス)ほか

ロンドン公演:2月14日@
ロンドン大学(University of London)のSenate House内 Chancellor's Hall 19:00~
日本の伝統芸能についてのレクチャーと公演を行います。

リトアニア公演:2月16日@ヴィリニュス大学 開演時間未定
日本の伝統芸能についてのレクチャーと公演を行います。

主要メンバーは、12日に日本を発ち、ロンドン公演の翌日にはリトアニアに、ヴィリニュス公演終演後すぐ帰国という、ええええええ、欧州まで行って観光のひとつもできないのおおおおお(号泣)、というスケジュールでありますが、プロジェクト最終公演を、いい形で演じられるように、力を尽くす予定です。
詳細が詰まったら、随時またアップいたします。

『イナンナの冥界下り』未来編~いとうせいこうさんの声の出演も~

◆◆◆イナンナの冥界下り 2017年6月公演迫る◆◆
  ~いとうせいこうさんの出演(声)も決定!~

イナンナの冥界下り2017年6月公演チラシ表2/20170511


来る6月23日(金:あ、もう来週の今日)に予定されている『イナンナの冥界下り』セルリアンタワー能楽堂公演では、いままでの「古代編」に加えて「未来編」も上演いたします。

古代編には、実験道場の面々も登場し、またまたポップな舞台になります。そして、未来編は一転して(なんと)能よりも静かな舞台になりそうです。さらに未来編には、いとうせいこうさんによる声の出演(自著朗読)も決定しました。

ちなみに正面席はございませんが、ほかのお席はございますので、どうぞお早目に~。

▼未来編の舞台はシンギュラリティ直後の世界

未来編の舞台はシンギュラリティ直後の世界です。

AI(人工知能)やVR、そしてロボットなどのコンピュータ技術の進歩や、遺伝子工学、人工臓器などの生命科学などの発達によって、今までの常識がまったく通じなくなる世界(シンギュラリティ=特異点)が2045年頃に訪れるという予測を、レイ・カーツワイルがしました。

その前にも2020年(東京オリンピック)や2030年にも大きな変化が予想されています。もう目の前の話です。

シンギュラリティ表紙
マレー・シャナハン (著), ドミニク・チェン (監修・翻訳)

今回の『イナンナの冥界下り』未来編は、2045年頃と予測されているシンギュラリティ直後の世界が舞台です。

本当にシンギュラリティがやって来たら人類はどうなってしまうのだろうか。ひょっとしたらコンピュータに支配されたり、あるいは滅んでしまったりするのではないか、そう心配する人もいます。しかし、私はそんなことはないと思っています。なぜなら、このようなシンギュラリティを人類は過去に何度も体験してきたからです。

とはいえ、そのたびごとに確かに人々の生活や文化は激変し、ときには脳そのものの変化すら起きました。いまの生活がそのまま続くということはないでしょう。

直近のシンギュラリティは「文字」の発明による文字シンギュラリティです。文字シンギュラリティは、「心」を生み、「論理」を生み、そして「法(組織・マニュアルも)」を生みました。

シュメール語の『イナンナの冥界下り』は、文字シンギュラリティ直後に書かれた神話であり、私たちはこの神話を上演することによって、文字シンギュラリティ後にどのようなことが起こったかを知ることができます。

ならば、その構造をそっくりそのまま未来に移し替えることも可能なのではないか、そう思い『あわいの力』や『イナンナの冥界下り』(ともにミシマ社)を書いたのですが、その世界がほぼそのまま小説になっていたのです。

それが、いとうせいこうさんの『親愛なる(河出書房新社)』でした。

親愛なる表紙

▼ダンスをコトバとする主人公

『親愛なる』の初版は、読者ひとりひとりにカスタマイズされた形で物語れるという実験的な方法で書かれました(現在は普遍版の入手も可能)。

あらゆる事件が自分の周囲で起こり、自分のメールアドレスにいとうさんからメールが来る。そんな仕掛けに取り込まれ、現実と虚構との境を見失っているうちに、いつの間にか不思議な位相に引きずり込まれていて、気がつくと自分が近未来の韓国の地下世界にいるのです。

いとうせいこうさんの『親愛なる』では次のように書かれます。

*****************
昔、地上に人がいた。
だが、大きな戦いが起こり、人々は皆地下を目指した。
******************

今回の舞台は、この地下世界です。「イナンナ未来編」では、そこは「クル(Kur=冥界)」と呼ばれ、地下世界の女王「エレシュキガル」に支配されています。

小説のネタバレになるのであまり詳しくは書けませんが、『親愛なる』では、そこに住む人たちはどの国の言語も理解できるように身体改造がなされています。しかし、実はそれは「賢い者」によって「言葉が奪われている」状態なのです。

これって、即座に各国語に翻訳されるガジェットを手に入れた現代を思い出します。とても便利なようですが、実はそれを効率的に使うためには、たとえば主語を補ったり、従属節を明確化したりなどという英語的な文法でしゃべらなくてはならなくなります。知らないうちに世界中で文法の統一がなされ、それによって思考方法の統一がされてしまうのです。

こわ…。

さて、小説『親愛なる』の主人公であるソンメジャという女性は「DEF SONIC」と呼ばれる一群に属しています。彼女たちは共通言語的身体に改造されていないために、人々の話す言葉が理解できず、まずその話す言葉は人々には雑音としてしか聞こえない。

「DEF」とは、ヒップホップ用語で「かっこいい(definite)」とかそんな意味ですが、あとに「SONIC」が付くし、上記のような設定なので、当然それには「Deaf(聾)」が掛けられているでしょう(そしてそれと対になる「Mute(唖)」も)。

DEF SONICとして言葉を失っているソンメジャは、音声言語代わりにダンスで話し、聞きます。彼女にとっての(広義の)コトバは、ダンスなのです。

未来編のイナンナも、ダンスをコトバとするDEF SONICです。

※ちなみに主人公のソンメジャは、韓国の舞踏家、金梅子(キム・メジャ)さんがモデルです。

金梅子&土取利行「光」

※余談ですが、平城遷都1,300年記念式典のクロージング作品としたて、土取利行さんや中村明一さんと作った「間」を、金梅子さんが御覧になり、僕たちを韓国に招へいしてくださいました。そして、それを奈良で上演したときの司会が、いとうせいこうさんと松岡正剛さん…なんていう不思議な因縁もございました。

▼「脳」が文字を生み出した

ちなみに「Deaf(聾)」も「Mute(唖)」も、現代では差別用語として使用が控えらていれますが、しかしこれはシンギュラリティにおいてとても重要な身体的な特徴なのです。時代を変える人に刻まれた「聖痕」といってもいいでしょう。

文字シンギュラリティが中国で起こったのは紀元前1,300年ごろ、殷(いん=商)と呼ばれた時代です。

その時期に生まれたのが甲骨文字です。

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それを発明したのが誰かはわかっていません。しかし、殷(商)の「武丁(ぶてい)」という王の時代に最初のものが見つかっているので、武丁が文字を発明したという人もいます。そして、彼は聾唖(ろうあ)だったという説があるのです。

文字は、脳の外在化ツールではなかったかと思います。ひょっとしたら紀元前1,300年ごろに、現在のような突如とした情報の洪水が起こり、それによって氾濫しそうになった「脳」が外在化のツールを求め、文字が誕生したのではないでしょうか。文字は「脳」がその誕生を希求し、それを「DEF SONIC」の武丁が実現した、そう考えられるかもしれません。

ここら辺のことは情報学者のドミニク・チェンさんや、ゴスペラーズの酒井さんと『WIRED』での鼎談でお話したので省略しますが…


…しかし、それを発明したのがDEF SONIC(聾唖)の王であったという伝承は非常に重要だと思うのです。彼は、言葉の世界から離れていたからこそ、その洪水に巻き込まれることもなく、冷静に脳の外在化装置としての文字を生み出し得たのではないでしょうか。

▼不安創出社会を救う人たち

文字の発明によって、私たちは自分が直接体験したことのないことまでも喋ることができるようになりました。それが文明や文化を作ったのですが、しかし実体験よりも概念が上回り過ぎた現代人は、かつてないほど饒舌になり、その会話も思考も、身の丈を超えたものになっています。

「いま自分にないもの」を語ることによって人々はそれを「渇望」することになります。そしてそれは、やはり文字とともに生まれた「心」を刺激し、それが満たされないことがわかると「不満」が増大します。不満はやがて「不安」になり、多くの人々がびくびくしながらも、しかし不機嫌に生きる「不安社会」が誕生します。

現代社会は、ただ不安社会であるだけでなく、ニーズ(渇望)の創出というマーケティング手法の導入によって「不安創出社会」にすらなっています。

すべて「文字」と「心」と、そしてそれに伴う言語の過剰が生み出したものです。

ならば、ポスト文字や、ポスト心を生み出す人は、やはり武丁のような言葉を聞くことも、発することもできない人々、すなわちDEF SONICなのではないでしょうか。

▼無音の多い舞台

というわけで、「未来編」では言葉のない状態、すなわち無音やノイズが多くなります。

いろいろと調整中(許可の必要となることも多いので)なので詳細は書けませんが、派手な古代編とは対照的な静謐を多用する、緊張感あふれる舞台になる予定です。出演者も最少人数に抑え、舞台上にも空隙を多く作ります。

能を大成した世阿弥は「せぬ隙(ひま)」ということを言いました。言葉が出る前、動きが見える前、その時間的、空間的な間隙、それを「せぬ隙」といいます。後代の「間(ま)」のもととなる概念です。

今回の舞台では、この「せぬ隙」、すまわち「間」が非常に多い舞台になるでしょう。

ところどろこに、いとうせいこうさんの『親愛なる』からの引用が朗読されますが、それを朗読するのがいとうせいこうさん本人です。ただし、ノイズや音楽とリミックスされ、玉川奈々福さんの朗読、安田のシュメール語朗誦とも重なり(高井啓介先生にお願いして、いとうせいこうさんの文章をシュメール語訳していただきました)、いとうさんの存在も「せぬ隙」となります。

未来編のイナンナ役にはアムステルダム在住のコンテンポラリー・ダンサー湯浅永麻さんをお迎えします。埼玉トリエンナーレの『HOME(向井山朋子作・演出)』を、『イナンナの冥界下り』の出演者たちと観に行き、その表現力や身体能力の高さにみな度肝を抜かれ、今回の出演をお願いしました。

永麻さんはアムステルダム在住だし、能楽師、浪曲師の時間を合わせるのがなかなか難しいので、永麻さんをお迎えしての未来編・東京公演は今回が最後になるかも知れません。

実は2日公演にしたかったのですが、どうしても日程の都合がつかず、(ほんともったいないのですが)1回公演になってしまいました。

そんなわけで、安田からのメールも今日まで控えておりました。現時点でワキ正面と中正面にはまだお席があるようです。

くれぐれもお見逃しのなきよう、皆さまのお出ましをお待ち申しております。

■日時 6月23日(金)18時15分開場 19時開演

■場所 セルリアンタワー能楽堂(渋谷駅より徒歩5分)

■料金 正面席6,500円、脇正面席5,500円、中正面席4,500円

(てんらい会員は1,000円引き 指定ご希望の方は1,000円にて承ります)

■予約 てんらい事務局 event@inana.tokyo.jp 080-5520-1133(9時~20時)